yoshi

眼下の敵のyoshiのネタバレレビュー・内容・結末

眼下の敵(1957年製作の映画)
4.1

このレビューはネタバレを含みます

潜水艦映画にハズレ無しはここから?
間違ってたらごめんなさい!
もっと古くても面白いのがあるかもしれませんが…。
緊張感とリアリティが最後まで続く。
米独どちらかを一方的に悪役とはせず、両者を公平に描いているのがいい。

1957年制作のアメリカ・西ドイツ映画。
もはや60年以上前の映画なので、話の展開のスピードや個々の場面の会話などに時代を感じるが、内容そのものはかなり面白い。

特に、海上と海中という互いに見えない者どうしの戦いは息詰まるような緊張感。

米海軍の本物の駆逐艦を使った爆雷投下シーンなどのリアリティも迫力がある。

明らかに船の模型を使ったと思われるシーンも多いが、安易にCGを使った映画よりは、はるかに私の好みなのです。

第二次大戦中の南大西洋。アメリカの駆逐艦ヘインズの艦長に、民間の貨物船の三等航海士だったマレルが着任した。

部下の多くはマレルの能力を疑っていたが、遭遇したドイツのUボートからの魚雷攻撃の回避や、その後の操船や攻撃の指揮を見て、信頼を寄せるようになっていく。

Uボートにはシュトルベルク艦長が乗り込んでいて、暗号表を受け取るために進路140へ向けて急いで航行しているところだった。

しかしマレルに動きを読まれ、執拗な爆雷攻撃を受けて、乗組員たちは精神的に消耗していく。

シュトルベルクは、自分たちを攻撃する敵の艦長を悪魔のようだとののしるが、それは能力を認めることの裏返しでもあった。

やがて、何度か繰り返されるマレルの攻撃パターンに一つの隙があることを見出した…。


この映画には、多くの方が指摘されるように、敵を尊敬するスポーツマンシップに似た指揮官同士の戦いがある。

大筋はマレルとシュトルベルクという、敵味方の指揮官を描いたものだ。

見えない敵の動きや心理を読み、的確な判断を下し、効果的な作戦を立案し、それを実行に移す策略戦だ。

そして、部下の掌握と指導という優れたリーダーシップを発揮する。
どちらも優秀な指揮官なので、話に引きずり込まれるだけでなく、両者に感情移入していくようになる。

単に軍人としての能力が高いだけではない。人間性の高さも描いている。

マレルは新婚の妻が乗った船をUボートに沈められたことがきっかけとなって海軍に入った。

いわば復讐だ。
しかし、ドイツ兵を無益に殺すようなことはできないし、瀕死の敵兵を命がけで助ける。

シュトルベルクは、内心ヒットラーを嫌い、大局的な戦略に疑問を抱いているが、任務には忠実だ。

精神的に疲労して錯乱した部下に対しては、あたかも父親のような威厳と包容力で立ち直らせてしまう。

そして二人とも、敵の指揮官に対して敬意を持って戦う。

こうした人間としての器の大きさのようなものが、ごく自然に表現されるところが、やはり昨今のテロを題材にした戦争ものとは大きく違うところだろう。

キャラクターの人間性の高さは、制作者の人間性が反映されているのかもしれない。

この映画の面白さの鍵は「敵はどこにいる?」ことだろう。
すなわち、見えない敵を倒すというスリルだ。

もちろん戦争の敵は、海中と海上、すなわち眼下と頭上にいるのだが、この映画のメッセージとしては、それは真の敵ではない。

映画の中のマレルの台詞を借りれば、「敵は我々自身の中にある」ということになる。
「我々」とは、大げさな言い方をすれば人類全体をさす。すべての人間の心=悲惨な破壊を止めることができない心が敵ということだ。

あたかも反戦的なメッセージのようにも聞こえるけれど、実際には後付けのものだろう。

心の中の敵をどう克服するかということは全く触れていないし、映画のラストシーンは戦争がこれからも続くことを前提とした会話だからだ。

そこに戦争の虚しさ、反戦のメッセージが込められていると思う。

マレル艦長はロバート・ミッチャム。
全くといっていいほど表情に感情の起伏のない演技である。
しかし、その面構えと存在感で深い悲しみを湛えた冷静沈着な指揮官をうまく表現している。

シュトルベルク艦長はクルト・ユルゲンス。
こちらは表情などに困惑や闘志などが現れる。
第一次世界大戦からの古参で、叩き上げだ。
それゆえに国を守る軍人としての誇りがあり、狂信的で侵略行為を重きに置くナチスに批判的である。

戦争の機械化と大量破壊を嘆き、「この戦争には名誉などない。勝っても嫌な記憶が残るだけだ」と厭戦気分を募らせている。
この熱いドイツ軍人は彼の当たり役だろう。

冷静と熱血漢という指揮官同士の対比もまた面白い。

何よりも終戦から僅か10年ほどの1957年に、大戦では敵対していたアメリカ・西ドイツが共に映画を製作したという事実が凄い。

敵もまた人間である。
人として人格や能力は尊敬すべきだ。
悪いのは敵の人間ではなく、戦争を起こすこと自体であるというメッセージは、現在のテロ戦争を題材にした映画では、なかなか出てこない。

頭脳ゲームのような戦いの緊張感を楽しむ映画に見えて、深いメッセージがある。
クラッシックだが、傑作であると思います。
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