Yoko

天国の日々のYokoのレビュー・感想・評価

天国の日々(1978年製作の映画)
3.8
 20世紀初頭のテキサスの麦畑。
シカゴの工場で上司といざこざを起こした”ビル”は妹の”リンダ”、恋人の”アビー”の3人でシカゴを離れ、成り行きでこの地に季節労働者としてやってきた。
ビルは世渡りのためにアビーを恋人ではなく妹と偽り紹介することが常であった。
裕福な麦畑の農場主はこの真実を知らず、アビーに一目惚れしてしまう…。

 大半のシークエンスに登場する自然の美しい景色。
夕焼けを臨む麦畑で働く人々の影のシルエットや山の稜線。麦に群がる昆虫や、大地を駆け回る犬や羽ばたく鳥類。
まるでNHKの自然ドキュメンタリー番組を観ているかのようで、この作品が劇場でリバイバル上映されることを願うばかり。
 
 ここまでならただの美しい作品で終わるのだが、この美麗なロケーションを長回しでじっくり撮ることなくノータイムでテンポ良く進展する今作は非常にクセが強く、この点が人を寄せ付けない作風にもなっている。
ストーリーで発生している出来事はとても激烈なのだが、素っ気なくズバズバと行われる場面転換は異様な早さであり驚かされる。
上映時間が90分超と短めであるが、凡庸な監督であれば今作の物語を描くために優に2時間は超えるはず。
 
 今作の登場人物は何を考えてその行動に至ったのか分かりづらい節が多く、その理由としては「悩む」場面を省略しているからであろう。
どの人物の内面も空っぽのようであり、観客が感情移入することは容易ではない。
こちらとしては文字通り「観ているだけ」しか出来ない。
 ただ、人物の心理が掴めない描き方が監督の作為的なものであることを、この作品では「比較的分かりやすく」説明されている短いシーン(川下り)があったのでこちらとしては一応腑に落ちつくことが出来る。
個人的には無くても別に構わないし人によっては邪魔だったかもしれないけど、今作を誤解して評価しないでほしいという監督の一心の想いを感じた。

 この作品は本当にあっけない。
シークエンスは印象に残るのに、物語の印象は今作の季節労働者のように定まったものがない不思議な作品だった。
Yoko

Yoko