シズヲ

天国の日々のシズヲのレビュー・感想・評価

天国の日々(1978年製作の映画)
4.4
20世紀初頭の農場を舞台にした絵画的作品。監督の処女作『地獄の逃避行』と同様に洗練された映像の完成度に震える。アルバータ州で撮影された広大な麦畑のロケーションだけでも美しいのに、マジックアワーの夕景を利用したカットの数々が兎に角素晴らしい。逆光や陰影を活かした画面構図の数々には詩情さえ感じられるし、エンニオ・モリコーネのサウンドも本作の空気を効果的に演出している。労働者たちの何気無い生活模様も生々しさに溢れていて、美術じみた絵面を構成する要素として見事なまでに映像に溶け込んでいた。説明的な描写を廃した上で一種の宗教性にも似た趣を持ち込んでいたのも印象的。

三角関係の愛憎劇というストーリー性はあるけど展開の抑揚は稀薄で、それに伴って何処かぼんやりとした歩調で物語が進んでいく。また語り部のモノローグが多用される中でも心理描写は終始抽象的な印象が強い。それでも本作が秀でているのは圧倒的な映像美と超自然的な観念が物語の輪郭を構築し、一種の芸術じみた様相を作り出しているからだと思う。諦観が横たわる日常、そこで掴んだ束の間の天国、それらを焼き尽くす悪魔の炎。冒頭にリンダが語る「他者から聞いた話」が本作の哲学じみた骨子を貫いている。終盤、夕焼けを背景に自動車で農場から旅立つ場面は天国からの追放のようにさえ映る。
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