垂直落下式サミング

無法松の一生の垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

無法松の一生(1943年製作の映画)
4.0
荒くれ人力車夫の無法松(松五郎)と、とある縁で彼と知り合った家族の交流を描いたヒューマンドラマ。夫に先立たれた未亡人とその息子が、義理堅く侠気があるがお人好しなバカの無法松との親交を深めるなかで立ち直って、無法松も家族のために献身的に尽くすことで人の愛を知り救われていく。
血縁関係のない擬似的な家族の関係は、とても素敵だった。子供の前で格好つけたいオッサンと、その真っ直ぐな期待に応えようとがんばる子供、幼いころのやり取りは眩しく輝く宝物ののよう。奥さんにとってはちょっと複雑、死んだ夫とその友人の三角関係、男と女で、これが一番キツイ。でも、関係が続けられなくなったあとで、ようやくその尊さ有り難さが身に沁みる。
稲垣浩の監督作品は、『風林火山』とか『待ち伏せ』とか、日本映画が大作主義に傾倒していくなかで、過去の実績を買われて駆り出されてきたとしか思えないようなキャリア後期の凡作しか見たことがなかったので、あんまりいい印象がない。
本作は、普遍のヒューマンドラマを語ることに終始する作劇の緩急が、気持ちのいい人間模様を描写している。
演出はペーソスに徹しながら、ところどころでほのかなユーモアを添える義理堅さは、戦前から日本映画を支えてきた稲垣・伊丹の名匠コンビによる確かな手腕を感じられるもので、なかなかよかった。
でも、確かに古さは気になった。エンターテイメントとしての耐用年数は、遥か前に過ぎた作品ではある。それは否めない。
公開は太平洋戦争の真っ只中…。なるほど、古い。古めかしい。アンティーク的な価値。車輪が回りはじめて最後に止まることで物語の起結を表現するのは、僕らの感覚からすると些かオジサンセンス過ぎて、今みると笑ってしまう。