セトヤマ

無法松の一生のセトヤマのレビュー・感想・評価

無法松の一生(1943年製作の映画)
4.2
宮川一夫を語る上で稲垣浩は外せない。と思いつつ、
ずっとこの傑作、阪東妻三郎主演の今作を観ていなかった。

特に多重露光のシーンは有名でそのシーンが観たくて仕方なかったので、今回横浜シネマリンさんで上映してくれて本当に嬉しかった。

阪東妻三郎の芝居が良い。
無法松を演ずる姿は真に迫った、富島松五郎の魅力を最大限引き出していた。表情と体の動き、感情と、素敵だったな。
侠気のある純な男、コミカルなところも素晴らしい。

そしてやはり、宮川の撮影。まさに芸術。
稲垣監督らしいカメラワークのなかに、宮川一夫の魅せる構図、モノクロームの陰影の素晴らしさ。
どうやったらこんな画が作れるのか分かりませんが、
唯一無二、宮川一夫の芸術。
そして多重露光、現代で考えれば楽ですけど、この当時はフィルム、どれだけの計算がなされたのか、観ていて心震えました。
車輪の回転に無法松の人生を重ねて、人の一生の儚さ美しさを見事に描いていく映画史に残る傑作シーンといっていいでしょう。

映画が撮られたのは戦前、現代ではもう不可能に近い、街や人々の雰囲気が残っているのもまたこの映画の醍醐味。もうこれだけ昔の日本人を日本人が演じて違和感なく表現する事は不可能に近い。

時代の空気感を感じれて本当にいいなと。人情に触れるというか、他者に対する人々の優しさを感じ、暖かい気持ちになりますね。


実に素敵な傑作なんですけど、
本当に残念なのは完全な形で残っていない事。
なんだこれってくらいにズタズタにされてしまっていて、悲しい。

戦前の邦画の傑作は保存状態の悪さも含めて多くが喪失しており、無念の極み。

ですので今作の鑑賞前にある程度内容を知っておく必要があると思います。ですので、ぜひともあらすじ、シナリオを読むか三船敏郎版を観るからしての鑑賞をお勧めします。

特に後半よく分からないまま進行していきますので、ある程度想像し補完していく必要もあります。

しかし、伊丹万作の脚本も含めて、日本映画界に綺羅星の如く輝く人々の大傑作です。

本当に完全な状態で残っていない事が悔やまれる。