Kuuta

皆殺しの天使のKuutaのレビュー・感想・評価

皆殺しの天使(1962年製作の映画)
4.1
「やめるんだ!問題を増やすな!」

シャマラン「OLD」の元ネタの一つ。パーティーに集まった金持ち20人が、何故か家から出られなくなる不条理劇。夢と現実が混ざる映像演出も出来が良い。

家の中に当たり前にいる動物など、意味深な演出が山ほどあり、解釈は如何様にも出来るが、ブニュエルは明確な答えを残していない(あっさり外に出ている熊ちゃんがかわいい)。

DVDに付いていた解説によると、カンヌ映画祭で今作が公開された際、参加していたブニュエルの長男にまで記者が質問が来る事を見越し、「劇中で繰り返される反復は、尺が足りなかったからそうしただけだ」といった、想定問答まで仕込んでいたという。

なので、ディテールにはあまり気を取られすぎず、目の前にドアがあるのに壁をガリガリ削って外に出ようとする…といった不条理ギャグを楽しめばそれで十分な作品ではある。

それでも一点だけ、私なりに深読みしてみたい。

登場人物は「なぜ外に出られないのか」という問題の本質に向き合わない。むしろ、外に出られない結果生じる水不足だとか、人間関係の悪化に精神を絡め取られている。「目を逸らしていると自覚できない」アイロニカルな人物造形。

自分を縛る無形の力に意識が及ばない。この力とは、ブニュエルが無神論者だったことを踏まえれば、当然に神の存在であるだろうし、キリスト教の抑圧の中で生きる人々を滑稽に描いた、という見方が出来る。オープニングクレジットに合わせて大聖堂を映し続けるのには、流石に「意味がある」だろう。

一方で、ブニュエルは幼少期に学校でキリスト教を叩き込まれた経験があり、単に神を茶化すような事はしない、というややこしい側面も持っている。今作のエピローグで人々は、まさに神の視線の中で暮らす事を余儀なくされるが、外では暴動が起きており、神による不自由が、一種のシェルターとして肯定的に機能しているようにも見える。

家から出たと思ったらすぐに次の密室が待っている。その抑圧を神と呼ぶかどうかは別としても、人は社会において、完全に自由に生きる事などできず、不自由を背負いながらもがくので精一杯。そこには善も悪もないと、言われている気がした。82点。
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