優しいアロエ

皆殺しの天使の優しいアロエのレビュー・感想・評価

皆殺しの天使(1962年製作の映画)
4.0
〈ブルジョワジーの遭難@home〉

 冒頭から大聖堂によって“神”の存在を仄めかし、ブルジョワ階級のやつらを真綿で首絞めるように痛めつける愉快犯的密室サスペンス。加害者のいない論理破綻の監禁に際し、やつらは避難もできなきゃ非難もできず、ただただ憔悴していく。

 タイトルにもある「天使(ángel)」とは、なにを表すのだろうか。不条理な地獄をもたらした超自然的な存在(要は神に近い)か、あるいは神意を名目にブルジョワに一泡吹かせたルイス・ブニュエル自身のことか。いや、それとも「ワルキューレ」との渾名を持つ汚れなき娘レティシアのことなのだろうか。

 ただ、密室劇ということもあり、映像的な魅力には欠けていた。ひとつの空間で捌くには無理があるくらい各人の陰口や企みが交錯することも踏まえると、やっぱりほかの部屋をもっと活用してもよかったのではないか(監禁の息苦しさが低減する恐れもあるが)。物語の奇抜さからか現在も崇められている作品のひとつだが、たとえば小津やフェリーニの同年代の作品と比べると古臭さは拭えない。

 私の好きなゴダール『ウイークエンド』の発想元として重要な作品である。
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