よしまる

チャイナタウンのよしまるのレビュー・感想・評価

チャイナタウン(1974年製作の映画)
4.5
 ポランスキーの中でもっとも好きな映画。未見の続編をCSで録画できたので、先にこちらを久しぶりに鑑賞。いやー、この熱量、世界観、面白すぎて片時も目が離せなかった。

 ジャックニコルソン、フェイダナウェイ、ジョンヒューストン、3人の演技が超絶。単なる浮気調査が、政治絡みの水問題に発展、ここの部分が実話を題材にしており、ミステリーの要素として物語の縦軸にしっかりと据えられているのだけれど、これに絡むヨコ糸がラブロマンス。
 しかも探偵と依頼主なんて陳腐な関係ではなく、愛憎が複雑に絡み合った歪な人間模様が次第に浮き彫りにされていく。

 この複雑な糸を、説明的な台詞ではなく、役者の行動、さらにはその表情だけで描いてみせているのが凄まじい。瞳の動き、指の先、背中、そういった演技で物語を語れる俳優さんが現在どれだけいるだろうかと余計なことまで思ってしまった。

 ニコルソン演じる探偵はもともとチャイナタウンで警官をしていたという設定。そこでは本当のことは何もわからないし、見て見ぬふりをするだけで深追いしてもろくなことはないという教訓を得てきている。

 そのためもはや水問題などどうでもよく、社会的な正義感など興味すらないというスタンスで、ただ己のプライドと出逢った女のためだけに奔走するニコルソンはハードボイルドの権化のようだ。

 チャンドラーの小説のような男としてしばしば解説されるが、チャンドラー原作のどの映画よりもらしさに溢れ、またあえてニコルソンの視点のショット(例えば背中越しのアングルなど)を多用したり、脚本にあったナレーションを排除したりすることにより観客と主人公を同化させることに成功している。

 これにより観客は彼の視点で物語に没入することとなり、女に秘められた事実に驚愕し、そしてあの衝撃的なラストシーンを迎えることになる。
 絶対に首を突っ込んではいけない世界、そこから逃げ出すために尽くした策が、一瞬で打ち砕かれる末路。まるではじめから手のひらで踊らされていたかのように、チャイナタウンは情け容赦なくその力を誇示していた。

 ポランスキーが最愛の妻シャロンテートとお腹の子を殺害されてから4年、その事件がこの映画の結末に色濃く影響していることは本人も認めている。
 そんな短かな時間では癒されることのない、やり場のない絶望感がこの映画を生み出したと思うとなんとも切ない。

 作られた背景と作品とは切り離して考えたいものではあるけれど、こんなにやるせないドラマが、名脚本家ロバートタウンと喧嘩して覆してまでなぜ生まれてしまったのか、やはり気になってしまうのだ。