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裸の拍車のmasayaanのレビュー・感想・評価

裸の拍車(1953年製作の映画)
3.5
ほとんど止まっている物が運動を予感させるのは、どんな場合か。物理学的には、それが位置エネルギーを持ったとき、すなわち一定の高度を有した場合である。その見えないエネルギーが運動となるには、必ず「落下」を伴う必要があり、アンソニー・マンの映画ではその見えざるエネルギーがサスペンスとなって充満しているように思う。(俳優のせいもあるのか、ヒッチコックっぽくもある。)

実際、鑑賞2作目となるこの『裸の拍車』では、『ウィンチェスター銃'73』のラストで格好の舞台装置となった「崖」が、冒頭とラストで二度までも登場する。それは、その「上」にいる者と「下」にいる者とにきわめて非対称・不公平な視界・死角の差をもたらす舞台であり、必然的に、落下のための位置エネルギーを蓄えてしまう場所でもある。

善悪や敵味方の境界は『ウィンチェスター銃'73』ほど単純ではなく、活劇ではなく心理戦で見せる手腕は『牛泥棒』や『黄金』なんかを彷彿とさせ悪くはないが、個人的にはやはり、『ウィンチェスター銃'73』を見て子供のように「おもしれえなあ」と言っていたいかも。
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