矢吹健を称える会

喜劇 とんかつ一代の矢吹健を称える会のレビュー・感想・評価

喜劇 とんかつ一代(1963年製作の映画)
3.5
 「とんかつ一代」なんて題名なので、庶民的なコメディかなあと思いながら見たが、いやさすが川島雄三、ドライでモダンな喜劇になっている。「ニュー青竜軒」の後継問題とか、いろんなことが投げっぱなしで終わるのだがその感じがまた良い。そしてフランキー堺・団令子カップルの距離感が実に痺れます。この二人が付き合っていることがわかる最初のショットがたまらないんだよなあ。団令子が電話に出て、その受話器を途中からフランキー堺が持つっていう。『汚名』ばりのキス連打にもグッとくる。
 また、『しとやかな獣』『雁の寺』でも一種異様な舞台を設えてきた川島監督作だけあって、空間の描き方が面白い。森繁の経営するとんかつ屋が、2階に座敷席があるという料亭みたいな設定になっている。加東大介の牛耳る青竜軒も、店舗の下に動物園があってしじゅう獣の声が聞こえるという変すぎる立地。三木のり平のクロレラ研究所も笑う。しかし何といってもやべえなと思うのは、フランキー堺と団令子がしょっちゅう密会する連れこみ宿で、フランキー堺は自分の雇い主であるその連れ込み宿の経営者の愛人の娘と見合いをする話が持ち上がってもなお、その連れ込み宿で密会を重ねる。どういう神経なのかよくわからないがカオスで良い。