二兵

過去のない男の二兵のレビュー・感想・評価

過去のない男(2002年製作の映画)
4.3
久しぶりに観たアキ・カウリスマキ作品。

暴漢に襲撃されて記憶を失ってしまった元労働者の男が、港町において、救世軍の女性や警官との交流を経て、自分を取り戻していくお話。

昔観た『浮き雲』や『街のあかり』と変わらない演出。(『街の〜』より前の作品ではあるけれど)
大事件も起こらず、役者陣が大げさな演技をする事もなく、過剰な演出がなされることも無い。

監督が敬愛する小津安二郎作品と同じで、観ていてじんわりと心に染み渡るような内容になっている。

役者さんは皆、無表情系のお芝居が多く、シュールなカットも結構多い。"ハンニバル"と名付けられた犬のエピソードなど、ユーモアに溢れた場面も見受けられる。

また、救世軍の人が作る温かそうなスープや、終盤で主人公が食べる寿司と日本酒の組み合わせが本当に美味しそう。

外国人がスシを食べる場面というと、下手すればヘンテコな物になりそうだが(偏見)
、今作のそれは、クレイジーケンバンドの曲と合わさって、実に渋く仕上げられている。

そして渋いと言えば、終盤の男2人の会話。互いに自己紹介して握手した後、相手側が"表へ出ろ"のジェスチャーを行い、外に出て共にたばこに火を点ける。『決闘か?』から始まる、言葉少なの会話。そしてあっさりとした解決。これをハードボイルドと言わずして何と言おうか。

音楽も耳に心地よく、その良さはエンディングまで持続する。良き映画でした。
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