dita

過去のない男のditaのレビュー・感想・評価

過去のない男(2002年製作の映画)
4.0
カウリスマキを観直そうシリーズ其の十九   

過去も金も名前もない男の周りには優しさと愛と情けがある。余りもののご飯、1本の煙草、少しのお金と知恵、少しのユーモア、あとはロックンロールがあればいい。無理なんてしなくてもいい。わたしがあなたに出来ること、あなたがわたしに出来ることなんてたかが知れている。少しでいい、ほんの少しでいいから人にしてもらって嬉しいことを自分も人にしてあげようねとカウリスマキは教えてくれる。神が慈悲をかけなくても警察や役所に邪見にされても、カウリスマキという映画の神様は決して人を見捨てない。

カウリスマキ映画の中には必ずグッとくることばがある。この映画は特にグッとくることばの宝庫だと思う。「俺が死んだら情けを」「名前なんてどうでもいい」「ひとつだけ頼みがある、幸せにしてやれ」淡々と語られることばの重みにいつもやられてしまう。
あと、映画史上最も可愛いハンニバルが見られる。こんなハンニバルならむしろそばにいてほしい。

全然関係ないけど、通勤で通る橋の下に4年くらい住んでいるホームレスの男性がいて、いつもわたしが食べるより高そうなパンを食べたり漫画を読んだりポータブルのテレビを見たりしているから、この人は本当は川の守り神なんじゃないかと思っている。通勤経路が同じ美容師さん曰く、課長島耕作を読んでいた一か月後に部長島耕作を読んでいたらしい。全然関係ないけど。
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