きまぐれ熊

レオン 完全版のきまぐれ熊のレビュー・感想・評価

レオン 完全版(1994年製作の映画)
4.9
新しい映画観るのに息切れしてきて衝動的にまた見ちゃった。

これ25年以上前の映画なんだよなぁ。
信じられない。
殺し屋と少女とか、牛乳2パックとか、麻薬ジャンキーの悪徳麻薬捜査官とか、マチルダの首のチョーカーのフェチズムとか。
ロマンを感じさせる記号的な要素が満載で見てるだけで幸せ。眺めているだけで楽しい。
この映画って流行とは無関係の記号で満たされてるよな。映像の鮮度ってトレンドに乗った瞬間から落ち始めるんだなってレオンを観るたびに思う。

もうなんていうかこの映画を形容するのに完璧って言葉以外に見当たらないんだよ。
この場合の完璧っていうのは、手法に間違いが一切ないってことでは全くなくてむしろ真逆。
細部の緻密さや技術の巧拙に関係なくて、表現したいゴールへのアプローチに一切のブレがないという意味。表現したい絵への指向性の強度が完璧というのかな。
この年齢でしか存在し得ないナタリーポートマンのアイコン的な美少女具合もそうだし、朴訥としててストイックな(しかもチョロそうな)殺し屋っていうおじさん萌えを煮詰めて固めたようなレオンのキャラ造形もそう。もしどこかのシーンで表情やセリフの表現が少し違ったとしてもきっとこの強度は揺るがない。

それが最も端的に感じられるシーンが、モノマネ合戦を始める中でゆったりとバンドネオンが流れるシーン。
別にライクアバージンじゃなくてもよかったし何ならモノマネゲームである必要すらない。2人でリラックスして笑いあえるならあのシーンは何だっていいのだ。
バンドネオンの演奏も即興的だし、こうじゃなきゃいけないって要素は何もないはずなのにブレを一切感じない。それがこのシーンの凄さだと思うし、だからみんなここの話をしたくなるのかなって思う。

あとはレオンがこだわる牛乳。
最近の通説だと大して健康に良くないどころか、実は取りすぎると骨粗鬆症になるリスクを孕んでるとか言われ始めてる。体を作るために飲むってのは実は正しくないんだよね。
でもこの映画における牛乳の意味ってそういうところじゃない。別に理論が間違っててもいいんだよ。レオンのストイックな精神性を示すのであって間違っていても傷にはならない。ずるい。

実写の作品ってだいたい10年もすれば、内容の優劣を除外しても空気感から感じる古臭さを隠せないものだけど、この映画に関しては全く感じない。もうあと何年経っても古さを感じることはないんじゃないかって気さえしてくる。
ストーリーやキャラクターの魅力が普遍的すぎて時代性とは関係のない場所にあるんだと思う。

あとこれ書くにあたってナタリーポートマンが、性的な面からリメイクはできないだろうって言ってる問題調べてみたんだよね。初稿が実はマチルダに誘われるがまま肉体関係を結んでたらしく、ナタリーポートマンの両親が反対して変更になった経緯があるみたいで。
いやぁ、そうなってたらここまで評価されてなかっただろうな〜。綱渡りのような完璧だったんだな。

まあそういった事情を知った上であえて無視して作品内の情報だけで読み取ると、
もちろんレオンはマチルダに対して恋人のような感情はあっただろうし、性的な目で見る側面もあっただろう(完全版ね)けど、娘とか次世代への生き甲斐や希望の様な気持ちもあっただろう。
その上でそれら全部の気持ちがグラデーションになってて、はっきり分かれてないのが美しいところだと思うんだよね。なんならレオンの恋人の話もマチルダを拒否するための嘘なんじゃないかな〜って思いながら見てた。そう捉えて観るとめっちゃ楽しい。
マチルダも年上の男への憧れとか、危険な状況で唯一頼れる人間への依存とか、単純に大切な人への愛情とか、全部がごっちゃになって混ざってるのが凄くいい。
だから結論を出さないままの終幕で本当によかったわ。

この映画を見た当時、海外の俳優の顔を覚えることができなくて、麻薬捜査官がダークナイトのゴードンと同じ俳優って知った時は驚いたなぁ。
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