このレビューはネタバレを含みます
ゾンビが走るなんて許せない。
なんていうつまらない理由からこの映画を今まで見ていなかった自分がとっても腹立たしいです。
めちゃくちゃおもしろかった!
食わず嫌いならぬ見ず嫌いをしていたため、この映画に関する知識は
・ゾンビが走るらしい
・感染力がすごいらしい
・目玉に一滴の血が入るだけで感染するらしい
・ものの数秒で感染するらしい
これだけでした。
ぶーぶー文句垂れながら見ることになるだろうなと思っていたのに、冒頭から引き込まれっぱなしでした。
80年代の映画と勘違いしてしまうような古臭い映像、感染源と思われるチンパンジーの暴走、28日後にすっかり朽ち果てたロンドン…。
舞台が大好きなイギリスというところも嬉しいポイントでした。
観光客でごった返してるはずのロンドン橋やピカデリーサーカスにひとっこひとりおらず、紙が風に吹かれてカサカサと寂しく鳴る音しか聞こえてこない。街の様子でチンパンジー事件から28日でえらいことが起こったのだと嫌ってほど知らしめてくれます。これどうやって撮影したの???
主人公が迷い込む教会でのシーンが本編で1番のお気に入りです。
人を見かけて、当然声をかける主人公。その声に即座に反応した何者かが、ものすごい勢いでこちらに向かってくるシーン。いろんな意味で震えました。
主人公はなにも知らないから、ぼけっとやってくる人を待つわけですが、見ているこちらはやってくるのが恐ろしい存在だとわかっているから、主人公が見てる扉の奥から響いてくる荒々しい足音が本当に恐ろしいのです。
ゲームの初代バイオハザードのハンターが現れる演出を思い出します。
よくわからないので、カメラワークがどうこうは普段は考えないのですが、そんなわたしでもこの映画のカメラワークは素晴らしいなぁと思いました。
一瞬映るゾンビ視点のカメラワークが随所に散りばめられていて、それが本当に怖い。
和やかなシーンの合間に突然数秒だけ強烈に走っている何者かの視線が挟まれて、緊張感を放り出す暇がありません。
のっけからブリティッシュジョーク飛ばしてインパクトの強かった男が、あっ!という間にリタイアしたところも、ゾンビものに付きものの「感染したけどこの人は仲間よ!殺せないわ!」(登場人物談)「ええい!もうそいつは助からんのだからはよ殺さんか!」(観客の気持ち)というジリジリした展開にならず、観客が「えっなにもそこまで徹底せんでも…」とあわあわしてしまうくらい潔くて新鮮です。それだけ状況は緊迫しているのだと、ウイルスの脅威や生き残りたちの今までの苦労も知らしめてくれます。
そんなふうに緊迫しっぱなしの展開なのに、フランクとハンナの親子の登場には、彼らのキャラクターも合間って思わずふっと手に込めた力が緩んでしまいました。
フランクはバイオハザードのビリーさんに似てて優しくて陽気なお父ちゃんだし、ハンナはリプニツカヤちゃんに似てて生意気そうだけど、しっかりしてて車のタイヤは代えるし運転もこなすし、もうきみ何者なんだいと突っ込まずにはいられないくらい2人ともいいキャラしてます。
それだけに後の展開は苦しかった…。
フランクさんの顔に見覚えがあったので嫌な予感はしていたのですが、CMで見たことのある目に血がぴちょんのシーンはやはりフランクさんでした。
そう思うと、CMでなんでここを流したのだと憎らしい気持ちになります。
海外の事情はわかりませんが、日本の配給会社やテレビ局はいかに自分たちが得するかを考えて映画を宣伝している気がします。当然っちゃ当然だし仕方ないのですが、このおもしろい映画を観客に楽しんでもらおうという愛があまりない気がします。余談でした。
この映画のすごいところは、前半と後半で雰囲気がガラッと変わるところです。
前半は王道のゾンビ映画。荒廃した街でゾンビから生き延びる人々のあがきをスリリングに見せてくれますが、後半は一転、ほとんどゾンビは出ず、生き残った人たちの醜い争いなのです。
わたしはゾンビが恐ろしすぎるあまり、後半にいたるまで大切なことを忘れておりました…。人間が1番恐ろしいのだということを。
だって今までの映画だったら、あの状況は勝ちだったんですもん!
軍隊の人と出会えたら、だいたい勝ちパターンだったんですもん!そうでなくても、彼らはみんな善良でかっこよくて、半分くらいは死ぬけど、生き残りに必要な人たちだもの…。
それがまさか人間のままで恐ろしい敵になるなんて。
確かに聖人君子じゃあないのだから、凶行に走ってもおかしくはないのですが、王道の前半から意外性ありすぎてびっくりでした。
この映画はゾンビの恐ろしさも人間の恐ろしさもえがいてしまうんですね。
中身は酷いとはいえ、イギリス軍の軍服はかっこいいです。
ゾンビinマナーハウスというのも素敵ですね。
フランクさんが好きなので、彼がマーケットからいただいてきたお酒が軍人さんに飲まれ、娘のハンナちゃんまで狙われたとあっては、もう気持ちはゾンビ寄りです。いけすかない主人公でもゾンビでもなんでもいいからこいつらをやっつけてくれと願わずにおれない。
ヒロインとハンナちゃんを手篭めにする前にドレスアップさせるところがやけに印象深いです。
さすが変態紳士の国ですね。
ラストあたりに変なギャグ持ってくるとこも好きです。
ラストシーンがあまりに爽やかなので、主人公が生還間際で死ぬことで定評のあるイギリス映画にしては優しいなと思っていましたが、DVDに入っていたもう一つのエンディングでそっちやってくれました。
そっちが劇場公開版らしく、それもさすがです。
わたしはこの映画の監督を、ゾンビを走らせた不届き者であると思っていましたが、映画を見ていて猛省しました。
「死霊のはらわた」を思わせるカメラワークや、「ゾンビ」よろしく観客を和ませるマーケットでのシーンなど古き良きゾンビ映画の愛を根底に、オリジナルの恐怖演出を加えた素晴らしい映画でした。大好きです。
門を広く持てば世界はこんなにも楽しいんですね!
もうわたしは走るゾンビを嫌いません!どんどん走っていいよ!