カツマ

ピアノ・レッスンのカツマのレビュー・感想・評価

ピアノ・レッスン(1993年製作の映画)
4.0
凍れる能面がガラスのようにひび割れ、その隙間から封印してきた情熱が蒸気のごとく吹き上がる。青と白のポスターからは想像も出来ないほど、焔の色に燃えさかるラブストーリーだ。ラストには暴走した愛のつぶてが降り注ぎ、もう手が付けられないほどの修羅場と化した。とてもシンプルな愛の話でもあると思う。言葉が無くとも通じ合う愛だから、官能よりも純粋さを感じてしまいました。

舞台は19世紀のニュージーランド。声を失った女性エイダは縁談がまとまり、娘のフローラと共に相手の住むニュージーランドへと移り住む。ニュージーランドはまだ未開の地で多くの原住民が生息していたが、そこでエイダは原住民に溶け込んで暮らす男ベインズと出会う。ベインズはエイダにピアノのレッスンを願い出るも、すでに彼の心はエイダのもの。夫とベインズの間で揺れ動きながら、エイダは忘れかけていた情恋の火を灯し始めるのであった。

当時絶賛されたというホリー・ハンターの演技はもはや取り憑かれたかのようで、そこから声が発せられる雰囲気は完全に消失。正常な人間が少しずつ変態と化す過程が生々しく描かれており、その露骨さに清々しささえ感じた。ピアノの旋律に乗せて、流麗なはずのメロディはいつの間にか泥色に変化し、もうかつての白さは戻ってこないのか。しかし、終わり方は好きでした。もしかしたらこの映画の主人公はタイトル通りピアノだったのかな。
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