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海を飛ぶ夢のdeenityのレビュー・感想・評価

海を飛ぶ夢(2004年製作の映画)
5.0
パッケージから甘い爽やかなラブストーリーを想像したが全く違った。テーマは「尊厳死」であり、冒頭のシーンから終始重苦しい空気でストーリーが進む。主演のハビエル・バルデムは今作ではハゲ面の四肢麻痺状態の爺さんを演じますが、自らの死を望むという超ヘビーな役柄。それでいて徹底して頑固を突き通し、家族などの誰の説得にも動じないという石頭。ジャケットに描かれているように風景描写は度々美しいシーンがありますが、そうでもなければどんよりムードへの傾きのバランスは取れないでしょうね。

そうは言っても実際クソジジイって訳でもなく、人とよく会話をしますし、ユーモアにも富んでいて自虐的な諧謔ジョークもなかなか微笑ましく、何より終始彼の笑顔が憎めない部分もあります。
一方、内に秘めた悲しみも深く、その笑顔すらも悲しみを隠すための手段。26年死にたいのに死ねない、という現実を抱えているラモンを見ていると物憂げな気分に同情してしまうわけで。結局のところ、答えの出ないテーマってのは一番考えさせられるわけです。
さらに作りとしても鬱の方面に追い込む構成でしたね。ひょっとしたら動けるのではないか、という淡い希望すらも抱いた後の空中浮遊。美しい海まで飛んでいくその様は優しく描かれているにも関わらず、それを打ち砕いていく運びには、さらっと現実の厳しさを感じました。

途中、彼が死にたいと思うのは家族の愛が足りないとバッシングを受ける場面もありますが、何十年も死にたいと願うラモンを生かし続けることが何よりも強い愛情であり、身内の気持ちを考えてもグッと来るものがありました。
その身内の気持ちもわかるからこそラモンの望みとも対立し、ジレンマに苛まれた家族が痛々しく、悲しくもなってくるわけです。

ただ、あくまでラブストーリーもしっかり描かれているわけで、ラモンは2人の女性と出会った。尊厳死を認めてもらうために付いた弁護士、そして尊厳死を望むラモンが気になってしょうがない工場婦。
ラモンのこの心の動きという点に関しても丁寧に表現されており、運命共同体のように感じた矢先に弁護士との約束が果たされなかったのは切なく、歯がゆい。実際その理由が明確になってないのは病気なのか、それとも夫の説得なのか不明ですが、それを理解しての工場婦のキスシーンは本当の愛を感じます。

ラモンのとった行動、家族の行動、どれも間違いはなく、客観的に法廷で判決が出るわけだけど、それもやはり当事者でもないのに何もわかるはずもなく、答えが出ないこのテーマに一つ答えを示したこの作品は、非常に濃厚な考えさせられる作品であった。