Kuuta

ワン、ツー、スリー/ラブハント作戦のKuutaのレビュー・感想・評価

3.9
・右にも左にも振り切れている。ポルポトみたいなど左翼の青年、程よく適当なソ連の秘密警察、頭空っぽのコカコーラの社長令嬢、元SSの新聞記者。

彼らが結婚を巡るハリウッドらしいスクリューボールコメディでてんやわんやしつつ、二重三重に政治的に聴こえるギャグを叫び続ける怒涛の映画。ホークスの高速会話を連想する。頭が疲れた。

(「社員総動員だ!」と言われ「古き良き日が帰ってきた!」と喜ぶ元ナチス。労働を愛する青年がコカコーラの令嬢のひもにさせられる屈辱を味わい「労働者を蜂起させてやる!」と叫ぶと「頑張れよスパルタカス」とツッコミが入る。間違った政治家を選んだ、的な話の流れで「ロシアじゃ失敗なしなのか?」「ロシアは選挙なしだ」…)

・資本主義も社会主義も軽快にグサグサ刺していく。東西ベルリンを行ったり来たりしながら、全員が無駄な悩みに時間を取られ、空虚なパズルに挑み続けた結果、何となく収まりのいい所に落ち着く。

ワイルダーの師匠であるルビッチ的な作品であると同時に、ポーランド出身の亡命者らしい内容とも言える?

・「タージマハルやシェークスピアを生んだ社会はまんざら捨てたもんじゃない」。このセリフにテーマは集約されている気はする。

テーマ曲が「剣の舞」なのも、ドタバタ感とソ連感の程よいミックス。「剣の舞をロックっぽく演奏しろ」という中盤の無茶振りに笑った。ソ連の楽団の精一杯の演奏は、文化にはアメリカもソ連もないという、この映画の精神に相応しい。

・引退していたキャグニーをワイルダーが引っ張り出して撮った作品。背の低い彼をフルショットで女性と並べるのは、多分意図的だろう。偉そうに指示を出し続けるキャグニーの滑稽さが浮き立って見える。

・整然と並んだ会社の机と機械みたいな仕事風景は「アパートの鍵貸します」の派生系

・権力闘争の「負け犬」ばかりが出てくるのもワイルダー的。

アメリカ南部の貴族とヨーロッパの堕ちた名門の結婚が話の軸。ナチス式の生活様式が抜け切らない秘書、元SSの身分を隠す記者…。コカコーラの社長ですら、南軍へのこだわりが捨てきれないアメリカの非主流派として描かれているのが面白い(今のハリウッドでこれは撮れないだろう)。全員が虚構に片足を突っ込みながらゲームを演じている。

キャグニーは右と左の境界に立ちつつ、結局は社内の出世競争に敗れていく。彼の演じてきた役柄とも重なる作り。オチにも「縄張り争いの敗北」を持ってくる。78点。
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