むぅ

潜水服は蝶の夢を見るのむぅのレビュー・感想・評価

潜水服は蝶の夢を見る(2007年製作の映画)
3.9
「最後まで読んでから言いなさい」

「つまんないんだもん」
読みかけで放ったらかしていた小説。父にそう言われた。
「つまらないと思う事も大切。でも、それは最後まで読んでから言うべきだとお父さんは思う」
中学生だったが、父から貰った言葉の中でも深く心に刻まれたものの一つ。

本は最後まで読む。
映画も最後まで見る。
TVドラマは時々、戦線離脱しまうけれど。
そして、相手の言葉は絶対に遮らずに最後まで聴く。

脳内で「セブンルール」か「情熱大陸」に出演する時は、このマイルールは外せない。

それなので、映画を観ていても途中で一時停止することもかなり少ない。
けれども。
今作は何度か止めてしまった。

つまらなかったからではない。
辛かった。

ELLE誌の編集長、ジャン=ドミニック・ボービーの回顧録が原作。
脳梗塞を患った彼は、目覚めると"閉じ込め症候群"と呼ばれる意識と記憶は正常だが、全身が麻痺する意識障害に陥っていた。
彼が動かせるのは、左目のまばたきのみ。

前半、彼の左目からの世界だけが描かれる。その追体験が苦しい。
自分がこうなってしまったら、どうするだろうか。
身動きの出来ない海底から、海面を見上げられるだろうか。
その海面の輝きや、その先の空を夢見ることはあるだろうか。
話しかけたいのに言葉が出ず、触りたいのに指さえ動かせない。
私ならその欲求さえ、潜水服の中に閉じ込めてしまうかもしれない。

左目以外に麻痺していないものが2つある。
"想像力と記憶"
自分を憐れむのをやめた彼は、20万回のまばたきで彼の物語を綴る。
彼が潜水服を脱ぎ捨て蝶を夢見れるようになるまで、どれほどの苦しみがあったのだろうかと思った。

"生きる"ということを考えさせられる物語。

「セブンルール」や「情熱大陸」で自分語りをしてみたり、買ったこともない宝くじに当たってみたり、バーで隣に座った綾野剛に声をかけられてみたり、ロマネ・コンティを飲んでみたり、どこでもドアで出勤してみたり、「もしかして!私たち!入れ替わってるー?!」をやってみたいとよく出会う散歩中のチワワを見つめたり、そんな私の脳内パラダイスも何かの糧になっているのだ、とも思った。
むぅ

むぅ