いの

潜水服は蝶の夢を見るのいののレビュー・感想・評価

潜水服は蝶の夢を見る(2007年製作の映画)
4.2
(事実と違うところもいくつかあるようですが)実話に基づいたお話。突如脳梗塞(閉じ込め症候群Locked-in syndrome)にみまわれた『ELLE』編集長ジャン=ドミニック・ボービー氏による回顧録に基づく映画。難病物の、よくあるお涙頂戴とは全く趣を異にする。


全身麻痺で、左目しか動かせない。序盤、カメラは彼の左目となって、どのような視界となっているかを、映像を通して観る者に提示する。梗塞しているのは脳だけじゃなくて心もそうで、最初はとても狭い視界だし心もそうなんだけど、彼が、様々な人(言語療法士や口述筆記者や多くの医療関係者や子どもたちやその母)とのやり取りを通して、硬くなった心がやわらかくなり、自分をあわれむのをやめたとき、カメラを通してみせてくれる視界もゆっくりと広がっていく。


なにより今作が心に迫ってくるのは、想像力と記憶さえあれば、心は自由に、何処へでも羽ばたいていけることを、映像と語りでみせてくれること。心は何処へでもいける。過去にも未来にも行くこともできる。体は重く、全身が潜水服で覆われるような状況でも、心は羽ばたける。それを映像の力と語りでみせてくれる。わたしはいくつかの病気を抱えて生きている。この先わたしはこの映画にもっと支えられていくことになるのかもしれない。『慰めの報酬』のマチュー・アマルリックさんの演技はもはや演技を超えていて圧巻。回想シーンで垣間見せるダンディさ、色気、洒脱さ、文学に対する深い造詣 などは、闘病中も決して手放すことはない。どんどん魅力的にみえてくる。ぐいぐいくる。そして、献身的な医療関係者の、患者を尊重する態度にも心が救われる。これは一方通行ではなくて、双方向の繋がりで、互いが影響を受けあっていくこともさり気なくあらわしていると思う。ベルク海事病院、海などの映像も素晴らしいし、エンドクレジットで流される映像も、そして数々の音楽も本当にステキ。
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