ゆうゆ

潜水服は蝶の夢を見るのゆうゆのレビュー・感想・評価

潜水服は蝶の夢を見る(2007年製作の映画)
4.5

鎧のような潜水服に覆われて
仄暗い海の奥底に沈んでゆく僕は
太陽のひかりを浴びた花々のあいだを
縫うように甘い蜜の香りに包まれて
軽やかに宙を舞う

拘束された重い鉛のからだのなかで唯一
神に許された左眼の瞬き。
その蛹のような殻の中には様々なかたちの
愛の記憶ときらびやかな経験と
どこまでも豊かなイマジネーションが広がり
海の深さ 空の高さ 無限の宇宙を超えた
どこか穏やかで高揚感に満ちた自由が
存在していた

20万回の瞬きで綴られた彼の言葉。
"E S A R I N…"と連なるアルファベットを
根気よく掬い 個々の文字が単語となり
文章を紡ぎ ひとつの物語となり 海と時を越え
たくさんの人に届けられてゆく、

その気の遠くなるような過程には
常に寄り添い続けた人たちの愛の深さも
忘れてはならない。
彼の心の声と 視覚 想像力を介して視る
"映像"とニュアンス、音楽の美しさには
絶望を越えた詩的な繊細さと茶目っ気と
少し毒を含んだユーモアもあり 悲壮感よりも
彼本来の華やかで人間的な魅力が垣間見れ
手を差し伸べた周囲だけでなく私たちをも
魅了していた




2022-288
ゆうゆ

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