カラン

潜水服は蝶の夢を見るのカランのレビュー・感想・評価

潜水服は蝶の夢を見る(2007年製作の映画)
5.0
閉じ込め症候群locked-in syndromeになって、左のまぶた以外は麻痺で動かせなくなった、モテ男の物語。

脳梗塞等で、意識があり開眼しているが、その他全ての部位が麻痺で動かなくなるが、まばたきで自伝を書く。こういう障害のない私たちにとっては、言葉を発して、メールを書いて、抱きしめて、他人に自分の意思を伝えることができるので気付かないのだが、きっと私たちのコミュニケーションは奇跡的なまでに効率的なのだろう。潜水服を着た男が、遅々としてうんざりするほど進まない、まばたきのコミュニケーションで思いを語る。

素敵な女性たちに囲まれているが、伝えたい気持ちと、伝えられない無力さの間で、何万回なのか数え切れないまばたきと、夢想が羽ばたく。

バッハのピアノ協奏曲がたまらない美しさで、氷だなの崩壊等のイメージを使いながら、詩的なモノローグを重ねる。この映画のバッハは、画家としてのシュナーベルの重ねるイメージの効果もあるのだろうが、非常に美しい。普段はヴァイオリン協奏曲の中で聴くことの多い、ピチカートの美しい曲であるが、この映画ではハープのようにピアノを滑らかに響かせ、メランコリックでやるせない、甘く優しい、バッハを聴ける。

内面の描写が足りないとかいうことを言っている人がいるが、映画って映像と言葉と音楽と沈黙と疾走の複合だから映画なんであって、学校の教科書みたいな説明は不粋なだけでしょ。
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