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監督・ばんざい!のnetfilmsのレビュー・感想・評価

監督・ばんざい!(2007年製作の映画)
3.5
 レントゲン検査に横たわる青い人形、胃カメラ検診で口から入れられるカメラ、医師は腹部の断面を見て診断結果を示すが、今度は御本人が来て下さいと人形に告げる。映画監督・北野武(ビートたけし)は98年の『HANA-BI』がヴェネツィア国際映画祭金獅子賞を受賞し、同じく2003年の『座頭市』はヴェネツィア国際映画祭銀獅子賞を受賞。すっかり巨匠と呼ばれる地位にまで登り詰めたが、あろうことか「暴力映画は二度と撮らない!」と宣言し、次に撮る映画の内容で思い悩んでいた。伊武雅刀のナレーション、勝手知ったるギャング映画、舎弟の寺島進と共に相手の組で容赦なく銃をぶっ放した北野武はヒット作を世に送り出そうと、これまで手のつけてこなかったジャンル映画に片っ端から挑戦する。まず最初に手掛けたのは、『定年』と呼ばれる松竹・大船調の小市民映画だった。小津安二郎に無邪気なオマージュを捧げたロー・アングル。娘・明子(木村佳乃)の役はさながら『秋刀魚の味』の岩下志麻だろうか?続いて『追憶の扉』や『運転手の恋』というラブ・ストーリーを手掛けるが、内田有紀をヒロインに据えたシリアスな恋愛ものにまでどうしてもヤクザ映画の手合いが混じる。

 今作は前作『TAKESHIS'』同様に、北野武が自身のフィルモグラフィを自虐的に見つめ、解体・脱構築したメタ・フィクションに他ならない。たけし君人形は、「世界のキタノ」と呼ばれるようになった自身への辛辣な風刺であり、寡黙だったこれまでの武のフィルモグラフィを大袈裟に突き詰め、人形のため一言も言葉を発しない。ホラー映画『能楽堂』、忍者アクション映画『蒼い鴉 忍 PART2』なども出色の出来だが、北野氏が一際思い入れのある昭和33年の風景を綴った『コールタールの力道山』が特に素晴らしい。塗装職人だった父・菊次郎の狂気をビートたけしが思い入れたっぷりに演じた父親像にリアリティが滲む。ただ後半ラストに登場したSF大作『約束の日』のクオリティが、一番尺を取っているにも関わらず、凡庸に期しているのが勿体ない(但し江守徹の怪演っぷりは見ておいて損はない)。12本にも及ぶ自らのフィルモグラフィを俯瞰した北野武は、まるで『ソナチネ』の後の『みんな〜やってるか!』のように断片を繋げながら物語を紡ぐが、『みんな〜やってるか!』との一番の差異は監督・北野武の孤独の病巣だろう。前作『TAKESHIS'』同様に、ここにはメタ・フィクションとして冷笑した自身の輝かしいフィルモグラフィへの風刺と反骨が息衝く。自家中毒に陥っていた北野氏のフィルモグラフィはこの後ゆっくりと変容し、『アウトレイジ』3部作のような暴力映画を奇を衒わずに闊達に描写するようになる。『TAKESHIS'』同様、低迷期の北野氏にしか撮り得なかった混迷を極める物語は、北野武氏の最も気の利いた批評家は北野武氏自身であることを声高に主張する。
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