愛鳥家ハチ

炎の戦線 エル・アラメインの愛鳥家ハチのレビュー・感想・評価

3.4
第二次世界大戦下、連合国側と枢軸国側が凌ぎを削ったエル・アラメイン(エジプト)での戦いを、イタリア軍歩兵師団の視点で描いた作品。本作は、基本的には、最前線の一小隊の過酷な状況を淡々と描く作風で貫かれています。砂漠の静寂と爆撃の轟音といった対比が明瞭であり、"静と動"の緩急ついた演出が特徴的だったようにも思います。
 時おり挿入されるアラブ歌謡のBGMと砂漠の風景以外にエジプト要素がほとんどなかったのが残念でしたが、むしろ何もない荒涼とした砂漠に留め置かれた一小隊の物語なのですから、それも当然なのだと思い直しました。

ーー数字からみる戦線
 劇中でも紹介されますが、本作で扱われる"第二次エル・アラメインの戦い"は、1942年10月23日から11月4日まで続き、イタリア軍とドイツ軍の計104,000名の兵士が、計195,000名の英国第8陸軍と戦火を交えたとのことです。また、イタリア軍とドイツ軍側は死者9,000名、負傷者15,000名、捕虜35,000名であったのに対し、英国軍側は死者4,600名、負傷者8,500名であったとも説明されていました。
 連合国の大勝で幕を閉じたエル・アラメインの戦いですが、歴史的には、その後も枢軸国は次々と防衛線を突破され、北アフリカから姿を消すこととなります。連合国軍が「エル・アラメインの前に勝利無く、エル・アラメインの後に敗北無し」と評される所以です。

ーー無名戦士のために
 最終盤のとあるシーンからは、本作は、数知れぬ無名戦士(ignoto)の墓碑に捧げられたものであることが分かります。迫撃砲で粉々になり、砂漠に埋もれた遺体を回収する術はありません。身元不明のままエジプトの砂漠に消えた兵士も多かったことでしょう。連合国、枢軸国という別を超え、そうした人々のことを思うと、本当に厳粛な気持ちにさせられます。

ーー総評
 イタリア軍目線の戦争映画を観たことがなかったため、大変興味深く鑑賞しました。歴史を学ぶうえでも貴重な作品であるといえます。
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