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黒い牡牛のHKのレビュー・感想・評価

黒い牡牛(1956年製作の映画)
3.4
あの『ジョニーは戦場に行った』のダルトン・トランボが赤狩りでハリウッドを負われたときに偽名でアカデミー原案賞を獲っていた作品です。
公開から約20年後にあらためて実名で同賞を授与されましたが、さらにその後、同じくアカデミー原案賞を獲った『ローマの休日』もトランボ脚本だったとわかり話題になりました。

メキシコ農村の少年が育てた仔牛(といってもすぐ大きくなりますが)が闘牛に出場させるため連れ去られ、少年が取り戻そうとどこまでも追っていく物語です。
少年の純真さが涙を誘いますが、アメリカ映画ながら全編メキシコが舞台のノンスター作品ということもあり興行的には失敗したとか。
地味だし小学校で引率されてみんなで観に行く文部省推薦っぽい映画ではあります。

しかしトランボのことを知っているといろいろと考えさせられます。
少年が連呼する牡牛の名前“ヒターノ”はフラメンコの源流でもあるロマ民族(ジプシー=放浪・移動型民族)のことで、ハリウッドを追われて放浪するトランボ自身と重なります。

原題は“The Brave One”(勇者、勇気ある者、立派な人)
ブレイブワンとは不屈の闘魂を持つヒターノのことか、決してあきらめない少年のことか、それともラストで声を上げた観衆ひとり一人のことでしょうか?

クライマックスの闘牛シーンはまるでコロセウムで行われる『スパルタカス』の決闘のようでもあり、メキシコシティの観光地はちょっと『ローマの休日』を思い出しました。

本作に登場した闘牛士リベラは本物の名闘牛士だそうですが、本作で見られるような闘牛は今はもう行われていないようです。
音楽は『エデンの東』『シェーン』のビクター・ヤング。

ちなみに原題が全く同じ映画『ブレイブワン』(2007年、監督ニール・ジョーダン、主演ジョディ・フォスター)が存在します。
チャールズ・ブロンソン主演の『狼よさらば(デス・ウィッシュ)』の女性版ですが・・・とくに関係は無さそうですね。
HK

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