「トランボ ハリウッドに最も嫌われた男」を観た事でその存在を知り、観たいと思っていた作品。
原案としてクレジットされているロバート・リッチは所謂"赤狩り"の対象として業界から追放されていたダルトン・トランボである。
興行として成功を収めたとは言えないものの、当時のアカデミー原案賞を受賞。トランボ名義としては後の1975年に改めて彼本人に賞が贈られている。
貧しい農家に育った少年レオナルド(マイケル・レイ)は落雷で倒れた大木の下敷きで死んだ母牛の傍で、生まれたばかりの黒い子牛を見つける。子牛に"ヒタノ"と名付け、可愛がるレオナルドだったが、ヒタノには闘牛としての避けられぬ運命が待ち構えていた—— 。
ヒターノ!ヒターノ!
少年が何度もその名を呼ぶ声が耳に残る。
"ジプシー"という意味の名を与えられた、勇敢な闘牛ヒタノ。彼を愛し、闘牛として殺されてしまう運命から守ろうとする健気なレオナルドが印象的。
レオナルドを演じたマイケル・レイの泣く演技だけがあまり上手じゃなかったり、ピューマに寝込みを襲われるシーンで、明らかにぬいぐるみを使用していたりと、粗さも目立つ。
それでも、終盤の闘牛場のシーンは圧巻の一言。
スタジアムに詰め掛けた大観衆の熱気と闘牛士の美しい舞いに魅了される。
不屈の精神を宿した"ジプシー"である牡牛は、まさに当時のトランボの投影。
殺せ、殺せと騒ぐ大観衆が次第に牡牛を生かそうと心変わりを見せていくのは、その願望の表れか。
総じて地味な作品だけど、メキシコを舞台にした映像はビビッドな色彩が画面に映えるし、ヒタノを守る為なら大統領にまで会いに行っちゃうレオナルドのひたむきさに心打たれる。
トランボ繋がりでの鑑賞がおススメ。