モールス

ボクサーのモールスのレビュー・感想・評価

ボクサー(1997年製作の映画)
4.0
アイルランドを舞台にした「父の祈りを」がインパクト強かったので、監督ジム・シェリダン、主演ダニエル・デイ=ルイスとなれば食指が動きDVDを購入しました。
本作は「北アイルランド紛争」を背景に脚本が構成されてます。ストーリーは刑務所に服役していた主人公ダニー(ダニエル・デイ=ルイス)が、出所したところから始まります。
故郷に戻ったダニーに待っていたのは、恋人マギー(エミリー・ワトソン)が今も服役している親友と結婚した事実でした。ダニーはそれを受け止めたみたいですが、好きだという気持ちはそんなに簡単になくなるものではありません。その自分の気持ちを抑えた恋愛模様が本作を辛口のラブストーリーにしております。
そんなダニーはボクサーとして復帰して、北アイルランドの象徴として注目される存在になっていきます。その心の拠り所にしていたボクシングさえも、政治的道具にされていたのは救いのない話ではありましたが…。
「北アイルランド紛争」を題材にした他作品は過去にも鑑賞しましたが、プロテスタントとカトリックの宗教戦争でもあったことが本作では分かります。プロテスタント側のイングランドのヘリがアイルランド上空を飛び回り、カトリック側のIRAは爆弾を作り上げてるシーンがありました。人間を救うための宗教が争いの種になってるのは、今の時代にも通ずる永遠のテーマなのかもしれませんね。
恋愛とボクシングと紛争がシンクロして、難しい時代に生きる人間の意志を感じました。
ダニーが服役していた14年の歳月をマギーと確かめあう話の流れは非常にせつない。またマギーの息子が母親がダニーに奪われることを心配する寂寥感も悲壮でした。すべてが紛争の副産物です。ラストのダニー達が出した決断は、憎しみから逃げたかったのでしょう。自力で未来を作るしか人は救われないのかもしれません。
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