masayaan

長江哀歌(ちょうこうエレジー)のmasayaanのレビュー・感想・評価

4.2
ヴェネチアで金獅子賞、批評誌『カイエ・デュ・シネマ』の年間ベストで2位。その評価に恥じない、「俗」と「アート」が共存する秀作。

話はシンプルながらも社会派寄りか。長江の下流域での洪水を防ぐという名目のもと、1993年から2009年にかけて建設工事が行われ、同時に、長江の周囲で暮らす110万人が強制退去させられたという、三峡ダム。本作は、このダムの建設を舞台背景としながら、かつて愛し、今は離れ離れになってしまった女/男をはるばる探しに来た男/女の短い滞在記を、一応はそのストーリーラインとして形成している。

しかし、特筆すべきはその映像の美しさだ。長江とそれを挟む山々の雄大な姿はいささか特権的で反則的なもの(ある意味では、単に風景写真的なもの?)だとしても、その周囲で暮らす人々の生活や、街並み、風俗、現場仕事に勤しむ男たちの裸体、そして、彼らが取り壊している古びた建物群ですら、桁違いの輝きを放っている。光の加減なのか、アングルの問題なのか、個人的なエキゾチシズムでそう錯覚しているだけなのかは分からないのだけれども、しかし、すべてがこの映画のために準備されたセットなのでは?と思えるほどの調和に達している。

物語への接し方という意味でも、かなり「心得ている」と言わざるを得ない。長江の周囲で暮らす大衆(底辺部、と言ってもいいのかもしれない)の生々しい生活の質感を、同情を誘うための道具ではなく、一つの事実として淡々と文字起こししていくような手つきで拾い上げて行くのだ。そして、少年の歌唱やダンス会のBGMという名目で挿入される、意外なほどポップなメロディーの大衆歌。これがアクセントになりつつ、しかし、めちゃくちゃ映像にハマっているのだ!

これはほんの直感めいたものでしかないけれども、富田克也と空族の傑作『サウダーヂ』は、この監督の映画に触発されたものなのでは、という気がしました。もっと見てみます。
masayaan

masayaan