ねこたす

ライブテープのねこたすのレビュー・感想・評価

ライブテープ(2009年製作の映画)
5.0
この映画が全編ワンカットで撮影されているだとか、前野健太の曲が良いとかは正直どうだっていい。

なぜこのドキュメンタリー映画がこうまでして自分の心を揺さぶるのか。それは、まさしくこの映画が撮影された時期に青春の日々を吉祥寺で過ごしていたからだ。
この映画には自分の青春の全てが詰まっている。

2009年の元旦吉祥寺、八幡神社でお参りする女性から弾き語りを始める前野健太へ眼差しが移る。
残念ながらこの神社は訪れたことが無かったが、あの通りの道なら知っている。すれ違うのに苦労するぐらい狭い道だ。ママチャリに乗ったお母さんが車道にわざわざ出てまで回り道しようとした気持ちが分かる。

何度もバンド練で通ったスタジオノア、マクドナルド。高校2年の大学応援をサボって、あのマクドナルドで時間を潰したのが思い出される。

そしてサン・ロードへ。入口近くには、今は亡き吉祥寺バウスシアター。そういえば、新劇場版のエヴァンゲリオン序を見たのもこの映画館だった。
通っていた高校は在学途中に移転したのだが、高1の時は東京女子大の近くにあり、このサンロードも何度となく歩いた。
SEIYUやブックスルーエにも足繁く通った。

横道、背後に見えるホープ軒。あのヨドバシカメラも、ちょうどあの時期に出来たのだった。確か前は大塚家具が入ってたっけかな。

道行く人がカメラを気にしたり、しなかったり。過度な反応をしないところは、いかにも吉祥寺らしい。
元旦にサングラスをかけたパーマ男が歩きながら弾き語りをしていても、どこか許されるような。そんな懐深いところがある街なのだ。

サン・ロードを曲がり、LOFTがある方へ。
普段はサトウの行列が印象に残る通りも、正月の為どこか寂し気。

そのまま進むと、麵屋虎洞の細道へ。
千葉の田舎少年だった僕は、高校受験の為前泊をする。確か泊まったのは吉祥寺第一ホテルだったはず。
東京の右も左も分からない。でも、その日食べた虎洞のつけ麺がとても美味しかったのは脳裏に焼き付いている。
ソウルフードの武蔵家やぶぶか。吉祥寺にある様々なラーメン屋に通ったが、原体験はこのラーメン屋なのである。

ハモニカ横丁に入ると、いかにもなバーの前で二胡を持った男が座って待っている。いかにもわざとらしい演出だが、その後のセッションが良いので気にならない。
特に、「友達じゃがまんできない」はモテキの劇場版でナキミソが歌っていた。本当に良い曲だと思う。

ハモニカ横丁を抜けると、吉祥寺駅前に出る。
あのロックインでは、自分の初めてのベースを買った。何冊ものバンドスコアを買った。綺麗な駅ビルが出来、アトレが入った駅だが、自分にとってはロンロンが吉祥寺駅の象徴だった。

そんな駅を抜け、公園口の入口へ。
あのドトールにもいくつもの思い出がある。ミラノサンドAを買って食べたり、井の頭公園に持って行ったり。後輩の女の子とだべったり。

移転した高校は、井の頭公園を超えたところにあって高2高3とあの道を通って高校に通った。何度も何度も何度も何度も。
あのビルの間の光がなんとも印象的だ。

井の頭通りの信号の長さも、そういえばそうだったなあと思い出す。道路を挟んでカメラは前野健太を撮り続ける。展開に合わせて信号が変わるのも、なんだか映画の神様が味方しているよう。

被写体とカメラの間には、確かに信頼感がある。普通はありえないが、松江監督が次の曲を指定したりする。

そして、ついに監督がカメラの前に出てくる。前野もサングラスを外し、しばし会話をする。
監督からの問いかけはそういう段取りがあってもおかしくないが、ふと前野から監督へ問いかけがある。
そこで、この突発的な思いつきに対して松江なりの意味付けがなされる。実はこの映画の一番のキモはここなんじゃないか。

そして階段を下りると、いよいよ井の頭公園へ。
知っている人ならお馴染みのステージ。メンバーが待っており、マイクの前で歌う。
段々と落ちていく夕陽がなんとも画になる。

たった70分少しの映画なのに、一つ一つ画面に映るものが自分の心を激しく動かす。
おそらく、普通に見てもそんな映画ではないはずだ。
でも、人によっては深い共感を覚えたりしてしまう。本当に映画って不思議だ。自分の為に撮ったと勘違いしてしまいそうになるほど。
この先何十年と歳をとっても、この映画を見れば自分の青春をいくらでも取り戻せる気がする。松江監督には感謝しかない。

確かに、あの時あそこに僕もいたのだ。