ちろる

みじかくも美しく燃えのちろるのレビュー・感想・評価

みじかくも美しく燃え(1967年製作の映画)
3.8
マネが描いた絵画のような、木漏れ日の景色の中にある美しい男女の他愛もない営みと、流れては止まるモーツァルトのピアノ協奏曲21番の調べがとてもマッチするうっとりとする映像を観ているとまさかこれが悲恋の始まりだとは夢にも思わない。
妻子ある伯爵と道ならぬ恋に落ちるサーカスの娘エルヴィラのハッとするような美しさと、時折見せるあどけない表情、そして無邪気に森の中で綱渡りをする映像の中のエルヴィラの姿はおとぎ話の住人のようで、どうかこのままこの美しい2人がこの田舎の森の中で無邪気に愛を紡ぎながら生きていってほしいと思ってしまっていた。
しかし全てを捨て不倫の愛に走っても、盲目的にお互いの愛だけを見つめて生き続ことは出来ない。
脱走兵でもあったスパーレは、美しいエルヴィラとの恋に溺れて現実からどんどん目を避けようとしている一方で、エルヴィラは心身を切り崩しながら転々とする中で嫌が応にも残酷な現実が見えてくる。
ぎこちなくなってきた雰囲気の中でスパーレに「私を愛さないで、食べることさえできないわ。」と言い放つ姿は夢見る男と現実をみる女の本質をリアルに見せていて彼女がこの恋のおとぎ話の住人ではなくなってしまった瞬間でもある。
前半はまだ何も知らない夢見る少女だったエルヴィラも、後半はもう大人の女性になっていた頃から悲劇の予感はつきまとい、始まりは眩い光の中の草原で瑞々しい風景だった2人の背景も2人の心情を表すかのように徐々に曇っていく。
暗くなっていく映像の中で突如として美しく太陽が降り注ぎ、始まりの頃のような無邪気なエルヴィラの姿がずっと心に刻まれる衝撃のラストシーンはもの哀しいけどやはり美しい。
ちろる

ちろる