えびちゃん

東京画のえびちゃんのレビュー・感想・評価

東京画(1985年製作の映画)
4.0
なんとも幸せな時間を過ごした。というか冒頭から痺れた。『東京物語』からはじまり、『東京物語』で幕が下りる。この作品の構成も鳥肌ぶりぶりたったが、『東京物語』の円環をなす編集に改めて打ちのめされる。小津ちゃんはやっぱり凄いなぁ。
ヴェンダースのたどる東京は小津安二郎の描いた東京に線で繋がっていかない。小津の描いた質素で簡潔な東京の風景はもはやどこにもなくて、ギラついたネオンが溶けこんだ欧米の模倣と独自のヘンテコ文化が入り混じる街に困惑するヴェンダース。1983年の東京はバブル前夜の、なにか落ち着かないような浮き足立つような軽薄な空気感がある。
ゴルフはコースに出て穴にボールを入れるスポーツのはずなのに、都会のビルの屋上で打ちっぱなしに通う異様な日本人たち。言葉を発さずにパチンコ台にむかう大人たち、ゲーム台に向かう子どもたち。いつまでも見ていられる食品サンプル工場。言われてみると確かに変な文化である。スクラップアンドビルドを繰り返す東京に小津的風景は当たり前に無く、なんかごめん、、という申し訳なさを感じる。
控えめで優しそうな笠智衆。マダム集団に記念写真を撮られるも、最近ドラマに出たからで小津作品に出ていたことで知られているわけではないと謙虚を通り越しておる。俳優の顔をしていない笠智衆をスクリーンで観るのは不思議な感じ…。
風景は消え去っても人の記憶にずっと生き続ける。笠智衆と助監督の厚田さんのインタビューを通じてヴェンダースは小津作品の魂と呼べるものは風景に残るものではなく、人と人との間に宿るものなんだと気づいたのではないだろうか。ヴェンダース自身の言葉で綴られるナレーションが嬉しかった。
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