みかんぼうや

現金に体を張れのみかんぼうやのレビュー・感想・評価

現金に体を張れ(1956年製作の映画)
3.9
【後のキューブリック的芸術性と狂気性はまだ薄めだが、多くのパズル型クライムサスペンスへ影響を与えたであろう優れた脚本から、既に鬼才ぶりが溢れ出ている。】

最も好きな映画監督の一人であるキューブリックのハリウッドデビュー作にも関わらず、なぜかこれまで見てこなかった本作をようやく視聴。色々な意味で大変面白い映画でした。

まず、単純にパズル型クライムサスペンスとして完成度がとても高く見応えあり。「レザボア・ドッグス」や「ロック・ストック・トゥー・スモーキング・バレルズ」といった “超”がつくほど大好きな映画の源流と言っても過言でではない、小気味よく巧妙な時間差パズル展開の妙味を味わうことができる。正直なところ、これら2作品のほうが映画的に軽快でオシャレ感があって私的には好きですが、1950年代にこの作品を長編デビュー作としてリリースしたことを考えると、当時の衝撃度、そしてその才能に対する評価は相当なものだったでしょう。

次に、のちの「時計仕掛けのオレンジ」や「2001年宇宙の旅」に見られるキューブリックらしい芸術性や狂気性がまだ本格的に開花する前の、派手ではないが王道かつ分かりやすいプロットがとても新鮮。「時計仕掛け」や「2001年」でキューブリックにハマった私(に限らず、他にもそういう方が多いでしょう)からすると、彼の作品はそもそもこの巧妙な脚本が映画の中枢としてしっかり存在するからこそ面白いのだ、という基礎に立ち返ることができます。

そして最後に、この強烈なラストシーン!この「THE END」は、一瞬、タランティーノの「デス・プルーフ」を思い出さずにはいられない、映画史に残る破壊力があります(ちなみに形は違えど「明日に向って撃て」のストップモーションエンディングも少し頭に浮かびました。これらの作品に並ぶくらいインパクトがありますね)。
ラストシーンまでのオチのつけ方は、さすがに強引さを感じるものの、その他のキューブリック作品に見られる、「人生そうはうまくいかないよ」という皮肉もしっかり入っていて、ただパズルを楽しむのではなく、最後の最後まできっちりインパクトを持たせて終わるのはさすがキューブリック。

繰り返しになりますが、タランティーノやガイ・リッチーの作品を見ると、本作から影響を受けたのだろうな~、と思うところがたくさん。正直、それまで私が知っていたキューブリック作品とタランティーノやガイ・リッチーにあまり接点を感じたことがなかったので、本作を通して、改めてキューブリックの作風の幅の広さと偉大さを感じたのでした。
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