りょう

ダークナイトのりょうのレビュー・感想・評価

ダークナイト(2008年製作の映画)
5.0
 バットマンというキャラクターは、原作もほとんどわからず、映画も「バットマン ビギンズ」しか観たことがなかったので、バットマンの物語そのものに共感するという感覚は稀薄でした。この作品では、宿敵のジョーカーが仕掛ける挑発に翻弄される正義の化身(バットマン=ブルース・ウェイン)がさまざまな背景のもとで葛藤する世界観とともに、それを視覚化したダークな映像に魅了され、いわゆるアメコミ映画のイメージを完全に覆されました。
 この作品がなければ、映画化のコンセプトはまったく別物なのでしょうが、くしくも同年に公開された「アイアンマン」を起点とするMCUの大成功もなかったような気がします。

 個人的には、この作品で転機となったもう一つのこととして、いわゆる劇伴に分類される映画音楽があります。それまでコンピレーションなどには関心がありましたが、ハンス・ジマーが担当する楽曲と映像のマッチングに感動したことがきっかけで、自宅で劇伴だけを聴くことが多くなりました。
 最近は、さすがにすべては無理ですが、あらかじめ劇伴を聴いてから本編を観るようにしています。クリストファー・ノーラン監督とハンス・ジマーのコンビの作品はどれも秀逸です。

 クリストファー・ノーラン監督は、2000年の「メメント」で「タダ者ではない」と思って注目していました。2006年の「プレステージ」までは「いつもながらの秀作」という感じで観ていましたが、この作品で完全に信者になり、これ以降の作品は必ず劇場で観るようにしています。
 「アクション・シーンの描写が下手」などと批判されがちですが、CGをプラス作用で多用しない(主に撮影機材などを映像から消去する目的で使用する)というスタンスが映像のリアリティに反映されている(あくまで本物志向)と思うので、そうした批判を意識したことがありません。それよりも物語の世界観や脚本のオリジナリティに注目しているため、それらを自身の演出で徹底的に追求する撮影スタイルに共感します。
 若くして才能を発揮し、誰もが羨むような莫大な予算で傑作を製作しているため、多くの映画人の先達に嫉妬され、アカデミー賞などから阻害されているという噂もあります。この作品は、「テネット」までの一連の経緯などからすると、それが事実なのかもしれないと思わせる大傑作です。
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