【2020年64本目】
切り札が造りだす、極限の黒。
個人的に、ジョーカーというキャラクターは
映画を語る上でなくてはならない存在になった、と今作で思う。
ニコルソンは、コミック感が強い。
ノーランはあえて、このキャラを現実思考な世界観に登場させた。
その役割を狂演したヒースレジャーが、撮影後に死亡してしまったこと。
この流れは、偶然ではないと思う。
ジョーカーの思考に共感できる人物はいないと思う。
感情移入もできない、そもそもさせる気がないにもかかわらず、このキャラクターは魅力的だ。
現実でこんな奴がいたらたまったもんじゃないのに。
これは、鑑賞者が映画をフィクションだと知っているからだと思う。
その中で、狂気を演じるキャラクターが現実に蔓延る人間の本性を暴いて鑑賞者の喉元にナイフを突き刺すように露呈させることがジョーカーの魅力だと思う。
ヒーローは、フィクションの荒唐無稽な映画という舞台を救う役割しかない。
しかし、ジョーカーは、この映画装置を限りなく
現代に近い箱庭に引き摺り下ろす力がある。
彼は、この作品を映画だと知っているし、
現実の世界が、如何に救いがないかを知っている。
彼が行う非情な暴力を
彼はジョークと言う。
ジョーカーというアイコンが浮き彫りにする
残酷な世界は、現実に限りなく似ている。
ヒーローの助けを待っていても、何も起こらない。あるのは、人だけ。
人の心だけが、世界を平和にも戦争にもする。
逆説的にだけれども、
ジョーカーがいなければこれを描くことはできない。
彼のくだらないと思っている冗談が
現実世界の真理をつく。
これこそが映画的であり、映画の真価だとも思う。
もしかしたら、本当のヒーローはジョーカーなのかもしれない。