まさかさかさま

ダークナイトのまさかさかさまのネタバレレビュー・内容・結末

ダークナイト(2008年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

善と悪が入り乱れ、善が善を攻撃し、悪が悪を恐れる。
得体のしれない悪が跳梁跋扈し、善は己の存在意義を問い逡巡する。

アメコミ原作の作品において、一筋縄ではいかない屈折した世界観が描かれること自体はさほど珍しいことではないけれど、
いやそれでも、いくら有名ヒーローの人気シリーズという保険があるとはいえ、
ヒットが半ば義務づけられているハリウッド製ブロックバスターでここまでやるとはね。

ある人の最期の一言が爆発に飲み込まれて聞こえずじまいなんていうのも容赦ないし、
悪が完全に成敗されることなく、悪に取り込まれてしまった者だけが悲運を辿るというストーリーにも、
下手にカタルシスを与えたり安い涙を誘ったりすまいという作り手の意地が見て取れます。
ドンパチとは別の部分でここまでチャレンジングなことをやってるヒーローもの、今まであったかしらん。

肉弾アクション面においては、
前作に引き続き照明とかカメラワークでごまかされて何やってるかよくわからないところが多いなぁと思ったものの、
その代わり、爆破系や乗り物系のシーンでかなり興奮させてもらいました。
病院爆破、凄まじかったです。

全編を通して、ゴッサムシティ全体がひりひりした空気に覆われているというのか、
肌がぞわぞわするような独特の緊張感が漂っているのがなんだかとても映画っぽくていいなぁと思ったんですけど、
要所要所で静寂がとても効果的に使われてるんですよね。
音もなく映像がビルにぐぐぐーっと近寄っていくと、突然一枚の窓がパリンと割れて何かが始まる、
冒頭のこのワンシーンで既にゾクゾクさせられます。

そしてやっぱり何といってもジョーカーの存在感。
プロの役者なんだから当然といえば当然なんだけど、あんなに人のよさそうな顔のヒース・レジャーがあそこまで悪人顔になるとは。
ぐちゃぐちゃメイクがそう見せてるだけ?
いやいや、一瞬だけ素顔が見えるジョーカーメイクなしのシーン、表情だけでぞっとしました。
レクター博士ら錚々たる面々が名を連ねる、映画史における「悪」の系譜に、若くして大きな足跡を残したであろうその演技に感服。