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ダークナイトのnetfilmsのレビュー・感想・評価

ダークナイト(2008年製作の映画)
4.4
 タワービルから地上に打ち込まれたロープ、道化師のお面を被った数人組は華麗な手さばきで銀行に侵入する。支店長(ウィリアム・フィクナー)は犯人に無抵抗なフリをしながら、突如マシンガンをぶっ放すが敵のリーダーに逆に撃ち返され、手榴弾を口に放り込まれる。こうして黄色いスクール・バスの集団はまんまと警察を欺き、強盗は成功したかに見えたが、一味は仲間割れを起こす。一方、バットマンに扮した男たちは世直しと称して自警団ぶるが、その姿を本物のバットマンに咎められる。どちらの場面もバットマンとジョーカーの姿は巧妙に隠され、誰が本物で誰が偽物なのか容易に判別が出来ない。ブルース・ウェインことバットマン(クリスチャン・ベール)は屋上でゴッサム市警のジム・ゴードン(ゲイリー・オールドマン)と何度も接触を繰り返す。また新任の地方検事のハービー・デント(アーロン・エッカート)は正義感に燃える熱い男だった。ブルースはハービーの理想に感銘を受け、彼のキャリアをサポートする一方、堂々と悪と戦うハービーこそがゴッサムの求める真のヒーローであると考え、バットマンの引退を考えていた。ブルースはレイチェル・ドーズ(マギー・ギレンホール)に熱い想いを寄せているが、レイチェルの気持ちはブルースとハービーの間で揺れていた。

 クリストファー・ノーランの『ダークナイト』トリロジー・シリーズ第2弾。ボリショイ・バレエのプリマと付き合うブルース・ウェインの周りは相変わらず順風満帆だが、徐々に闇が光を覆い隠して行く。ハービー・デントと幼馴染のレイチェルとの恋の鞘当てもあるが、今作は何と言ってもジョーカーに始まり、ジョーカーの高笑いに終わる。前作で薄汚い悪党たちを叩きのめしたバットマンに対し、ジョーカーは夢よりもむしろ、現代の正義こそがトラウマ的だと嘯く。ジョーカーは市民の命とバットマンの正体を天秤に掛け、更に大切な2つの命の究極の二者択一をバットマンに迫る。それは影の自警団として暴力は行使するが、自分は暴力的な人間ではないと思い込む主人公の欺瞞をもしたたかに暴いて見せる。ジョーカーの左右に裂かれた大きな口、その原因として最初は父親の虐待を謳いながら、次には別れた妻のギャンブル依存を嬉々として表明するヴィランの詭弁の無限のバリエーションは、苦悩しながら行動するヒーローを嘲笑いながらシステムの矛盾を突く。ゴッサムにヒーローは必要だと主張するウェインとデントの仮初めの友情関係は、法の番人だったはずの人間が、正義を捨て去り復讐に走る最悪の結末を迎える。バットマンとジョーカーの二項対立そのものを背負うトゥーフェイスの形相は、9.11以降のアメリカ社会の病巣を照らす。燃え上がる100ドル札の束、CGに頼らず本当に爆破した病院、数々の落下のイメージと共に、ノーランがアメコミ映画に託した熱量が光る2000年代屈指の傑作である。
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