壮大な悪。ここまでじわじわと悪が社会を飲み込み、人が悪に堕ちていく様子をじっくりと見て取れる作品は過去になかった。
ヒース・レジャーの演技が、とか、ジョーカーというマッドなキャラクター設定が、とかではなく、画面の中にあの緑色の髪の毛の悪が存在したのを目撃してしまったという感じ。
ホアキン・フェニックスは、この作品が世に出た後に、自分なりのジョーカーを創り出さなければいけなかったのは、相当なプレッシャーだったのではないだろうか。
私の大好きなウィリアム・フィクナーに何という仕打ちを!彼も名悪役だと思うが、こうやってちょい役で弄ばれたり呆気なく殺されたりするところも好き。画面が締まるんだよなあ。
しかし冒頭の、ピエロのお面を被っていてどれがヒース・レジャーかわからないそばから、ヒース・レジャーの背中から並々ならぬ不穏なものを感じた。
どうしようもない悪が蔓延る中で、二台のフェリーが起爆装置を押さなかったのは、希望であり救い。
R.I.P.