【日本風俗史】
五木寛之の大河小説を映画化した本作は、炭坑労働における風俗史を歴史漫画のように語っていく。大正7年(1918年)、米騒動の中、ダイナマイトで軍に立ち向かった男・伊吹重蔵が炭坑の長へとのし上がっていく過程で、炭坑における過酷な労働が描かれる。磯部欣三「佐渡金山」によれば、佐渡島の金山において労働の中心は男にあり、20~30代の丈夫な無宿者を送り込み働かせていたとのこと。また女性は、遊女として鉱山労働者に肉体を差し出す存在であった。一方、本作の舞台となる北九州・筑豊炭田では、男女関係なく炭坑で力仕事をしているのが特徴的である。落盤事故シーンは ビリー・ワイルダー『地獄の英雄』さながらの迫力があり、閉所恐怖症を震え上がらせるものがあった。また戦争がはじまると、瓶に詰めた米を棒でつき米糠を取り除く歴史の授業でお馴染みの光景も再現されており、日本の風俗史に特化した一本である。