つかれぐま

ゼア・ウィル・ビー・ブラッドのつかれぐまのレビュー・感想・評価

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石油屋 vs 牧師
炎のバカ試合三本勝負!

資本主義と宗教。
それぞれの旗印の元に戦う「金の亡者」最強決定戦。同族嫌悪が発生するメカニズムが良く解る。

台詞なしの冒頭20分弱は、人類が武器を手にしてしまう『2001年宇宙の旅』の猿パートを思わせる。石油という「悪魔」を手にいれた「怪物」誕生を、不安を煽る音楽とともに暗示する。そんなキューブリック風味の幕開けがクールだ。

ダニエルは体を張って働く善男かと思いきや、早々に上手い言葉を弄して稼ぐ守銭奴になり果てる。牧師イーライも同じく金の亡者なので、2人の対立はまさに同族嫌悪。それが観客には解るのだが、ダニエルはそれに気づかない(認めようとしない)でいる。ここの面白さが本作の最大の柱。親子ほど年の離れたダニエル・デイ・ルイスを相手に渡り合う、若きポール・ダノも見所。

もう一つの柱は「血縁」だ。
同性愛者か不能者かは分からないが、ダニエルはおそらく家族を持つことを諦めた男。そのはずだった(この辺『パワーオブザドッグ』を思わせる)。それが養子との生活や、突然の「弟」登場で揺らぎ、その両方を失った怒りを「弟」にぶつけてしまう。口では「独りがいい、誰も信じない」と言いながら(それが擬似であれ偽であれ)家族という幻想への憧れを捨てることができなかった、寂しい男の悲劇だ。

結末のボーリング場は、シンメトリーな構図がもろにキューブリック的で、緊張感が増す。そこで行われる世にも奇妙な問答の馬鹿馬鹿しさとその後の悲劇。この男の半生は何だったんだろう。そんな大きな徒労感に包まれる最悪で最高の後味。