みかんぼうや

ゼア・ウィル・ビー・ブラッドのみかんぼうやのレビュー・感想・評価

4.2
【映画全体の“色”を決定づける強烈な音楽と緻密ながら大胆な画作りによる作品全体にまとわりつく陰鬱とした感覚が見事にマッチした石油王の破滅的人生】

私の勝手な決め事として、フィルマで★4.0以上は乱発せず、映画としての格や世間的評価は気にせず、後で何度も観直したくなるくらい本当に好きな作品のみにつけよう、と心に決めているのですが、ここのところの数本、ほとんど★4.0以上(笑)。いや、それだけ好みな作品に出会いまくっているという幸せな日々が続いているということですね!

ポール・トーマス・アンダーソン監督作品は「マグノリア」を公開当時に観て以来。本作を以前から知人に薦められていたことと、音楽の担当がレディオヘッドのジョニー・グリーンウッドと知ってついに視聴。このオープニングから漂う不穏な空気感、緻密で丁寧ながら大胆さも兼ね備えた魅力的な映像、そして狂人性全開の登場人物たちがぶつかり合う壮絶なストーリー展開、最高です。一作品観た瞬間に分かる「あ、この監督の作風、無条件に好きだわ」という、初めてキューブリック作品を観た時の感覚が蘇る、個人的にかなり刺激的な作品でした。

石油採掘による一攫千金を求めそれを成し遂げるダニエル・プレインビューという男の破滅的人生を描いた作品で、“石油採掘”というと当時の歴史背景なども含め敷居が高くとっつきにくそうな印象がありますが(しかもやや長尺なので)、映画としての面白味はその歴史的背景など小難しいことを抜きに、登場人物たちの狂気的な思考と言動の絡み合いにあると思います。

莫大な富を得るために成功し続けることに執着した男の、神を冒涜するかのような地元牧師や息子への仕打ちから見える破壊的人格を楽しむのはもちろん、この牧師もまたかなりの狂人性を持ち合わせており、この2人が交わるストーリーラインとその圧倒的な演技だけで十分お腹いっぱいです。が、その演技にさらに迫力をもたせる演出や油田採掘過程におけるダイナミックな映像など、映像作品としてのエンタメ性も十分。

そして、本作の“色”と言っても過言ではない全体に漂う陰鬱とした空気感を醸成している最大の立役者が、前述のジョニー・グリーンウッドが創る音楽。オープニングから流れるどこかホラーやスリラーのような音が、晴天の荒野さえも何か闇の中に引きずり込まれる印象を与え、その後も様々な印象的な音楽で、怒り、嫉妬、焦り、不安などあらゆる負の感情を見事に表現しています。映像自体は日中の明るい画が比較的多いので、もしもう少し違う音楽をあてていたら、作品の印象もだいぶ軽くなっていたと思います。が、まさにレディオヘッドの楽曲を思わせる独特なテンポの不協和音により、作品全編を通じて常に不安定さと負の感情がまとわりついた作品になっていると思いました。

美しい映画音楽がその映画の世界観とスケール感を彩る例は数多く知っていますが、ホラーでもないのにこういう不安感を駆り立て続けるような音楽がその作品の色を決定づける、というのは比較的珍しいように思います。

初めて観たアンダーソン監督作品の「マグノリア」はここまで強い印象が残っていないのですが(20年前なので忘れしまった、というのが正直なところですが)、他作品でも「ザ・マスター」「ファントム・スレッド」、最新作「リコリス・ピザ」など気になる作品が目白押しで、U-NEXTのマイリストの増殖に歯止めがかりません。
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