よねっきー

ゼア・ウィル・ビー・ブラッドのよねっきーのレビュー・感想・評価

4.8
3年振り再鑑賞。初めて観た時は退屈な映画だと思ってたけど、久しぶりに観たらめちゃくちゃ楽しかった。これプロレス映画だね。クライマックスまで一直線。栄枯盛衰ってよりも、成り上がると同時に堕ちていく。なんて気持ちの良い映画なんだ。

『スカーフェイス』然り『ポーラX』然り「破滅する男」って色んな映画で扱われてるモチーフだと思うんだけど、どれも俺はあんまり好きではない。没落がヒロイックに描かれるところにマッチョな気持ち悪さを感じるというか、あんまり共感できないからである。

だけどそれらの作品と比べて『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』が特別素晴らしいのは、映画全体がポール・トーマス・アンダーソン独特の捻くれたユーモアで覆われているところだ。彼のユーモアは、決してシリアスな雰囲気の中で一息つかせるような緩衝材的役割を果たさない。むしろユーモアがシリアスさを加速させる。映画の中の油井よろしく爆発する男性性を、どこからか俯瞰して馬鹿馬鹿しく描けるのが、やっぱり彼が他の監督と違うところなんじゃないか。俺はこの人のそういう姿勢が結構すき。

今年公開の『ライトハウス』はこの作品をかなり意識してたんじゃないかなー、と今さらながら振り返る。おれはあの映画もかなり好きだったけど、テーマの描き方とかやっぱ全然こっちのが卓越してますね。『ライトハウス』は「灯室」とか「人魚」みたいなモチーフを用いて物語に不在の女性性を画面的に説明してたわけだけど、この映画はそれすらしないし、むしろ徹底的に女性性を画面から排除してる。ただ荒涼とした大地に溢れる「石油」を奪い合う男たちの衝突を描くだけで、ホモソーシャルを描けちゃってるの、結構すごくないか。なんなら監督は気付かずにやってるんじゃないかとさえ思える。「特殊な状況下における人間同士の奇妙な繋がり」ってのに執着して物語を作ってきた監督ならでは。

ダニエル・デイ=ルイスの低声で語られる台詞が腹に響く。ラストシーンだけでも「I drink your milkshake!」とか「I am the third revelation!」とか「I told you I would eat you!」とか畳み掛ける言葉選びがいちいち最高。突き抜けてます。
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