もものけ

ゼア・ウィル・ビー・ブラッドのもものけのネタバレレビュー・内容・結末

5.0

このレビューはネタバレを含みます

アメリカンドリームを夢見る大陸で、金を掘り当てたダニエル・プレインヴューは、それを資金に今後経済を支えるであろう石油の採掘に賭ける山師。
各地を周り採掘権を買取る交渉に明け暮れるが、山師は信用されず大手石油会社に先を越される日々であった。
ある日、石油採掘の情報があるとサンデー家のポールが訪ねてくる。
情報の確かさを確認したダニエルは採掘を開始するが、それは一家を襲う運命の始まりでもあった…。


感想。
とにかく雰囲気が好きな作品で、人間の欲にまみれた社会の構図を、石油採掘という夢に合わせて描く災いの物語。

主演のダニエル・デイ=ルイスが渋い声で怪しげな山師を演じており、その独特なキャラクターと妙に品のある西部の男といった風貌が印象的でキャラが立っております。
共演にポール・ダノやキアラン・ハインズなど個性的な役者も出演しており、作品のシリアスさを演技で盛り立てており、役者達の演技合戦ともなっています。

石油採掘という危険で途方も無い労力を要する仕事を背景に、怪しげな山師という仕事を身寄りのない子供を引き取ってだしに使い、信頼させて事業を拡大させる孤独な男の半生を描いており壮大でもあるストーリーが魅力的です。

ニューフロンティアを目指して渡ってきたヨーロッパの人々が、アメリカ大陸で夢に挫折した貧しい暮らしぶりもよく描かれており、アメリカンドリームが一部の者にしか叶わない虚しさが、掘っ立て小屋で痩せた土地を耕してくらすサンデー家によく表れております。

スリラー作品のように展開する人間の強欲が、土地とその下にあるであろう石油という価値を奪い合う辛辣さが、より人間性を表していて面白いです。
ダニエルとイーライのやりとりなど、価値のわからない父親を騙す山師に食って掛かる様が、欲のぶつかり合いになる契約としての金銭のやりとりとして、経済学的にも面白く作られております。
そして情報戦さながらに展開する、価値をいかに隠して早く出し抜くかというせめぎ合いが、スリリングな音楽が効果的に使われて、スリラー作品として楽しめます。

まだ科学よりも迷信や信仰が根強い時代、少しずつ新しい技術が導入されてゆくとはいえ、石油採掘の危険な仕事では犠牲者が出るのは当然であります。
しかしイーライが教会を切望し、自らが牧師として活動する思惑には、金の無心から表れるようにイーライには信仰が強くあるわけではなく、指導者として注目されたいだけの孤独からくる欲として、信仰を盾にとっているように思え、欲を満たすために金をたかってきます。
それを迷信を煽り犠牲者には祝福がなかったからなど、過激な狂信めいた活動をするイーライの異常さが不気味さを醸し出します。

他人の土地の利権を使い、その下に眠る金のなる石油を吸い上げ、一時金のみで永遠に利益を吸い続けるダニエルも狂気じみており、その永遠に続く繁栄は、さながら吸血鬼のような存在でもあり、イーライと対をなす存在でもあります。

巨万の富を得る為に何でもやり、騙し裏切り家族を遠ざけて辿り着いた先には、1人で生き続ける孤独しか残らないダニエルの虚しさがラストでは、スタンリー・キューブリック監督作品のように、「全て終わった」と唐突にエンディングを迎えア然とするかもしれません。
でも喜劇とし観ればこれはとても可笑しく滑稽に見えるオチで、個人的には好きな演出です。

金への欲望は、アリが蜜にたかるように周りから有象無象が押し寄せて金を無心してきます。
それが巨万の富で永遠に続くとすれば尚更であり、血の繋がりですら骨肉の争いと化してゆきます。
それを知っているのか、ただの強欲からなのか、ダニエルは全てを遠ざけて守りきりますが、はたしてそれはいい人生だったのでしょうか。
全て遠ざけることは孤独になることでもあり、一人では生きられない人間のジレンマでもあります。

ラストには血は繋がっていない息子の妻として繋がったサンデー家のイーライを殺すことによって、全ての繋がりを断ち切ったことによる「全て終わった」という滑稽なセリフで終わるシーンへと続きます。
狂気でしかない石油採掘事業の吸血鬼のような存在を、うまく表現した終わり方でした。

アカデミー賞受賞作でもある作品で、個人的には喜劇でもある狂気の災いの物語がとても好きだったので、5点を付けさせていただきました!!
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