愛鳥家ハチ

ざくろの色の愛鳥家ハチのレビュー・感想・評価

ざくろの色(1971年製作の映画)
3.9
セルゲイ・パラジャーノフ監督による、実在した詩人サヤト・ノヴァの生涯をモチーフにした作品。サヤト・ノヴァ(1712年-1795年)は、ティフリス出身の吟遊詩人であり、恋愛の詩が著名とされています(注1)。ただ、本作は作中で述べられる通り、サヤト・ノヴァの伝記ではなく、「詩的世界のイメージを映画で表現したもの」であり、抽象度の高い作品に仕上がっています。このため、本作が真に意図するところを理解するためには、サヤト・ノヴァについての事前知識に加えて、映像の"咀嚼力"ないし"消化力"が求められているように思いました。

ーー色彩
 とはいえ、純粋に映像美によってもたらされる詩的世界を無心に堪能することが可能な作品でもあり、気負わずに鑑賞出来るのも本作の魅力でした。『ミッドサマー』(2020)のアリ・アスター監督は、同作の製作にあたり、「プロダクション・デザイナーにパラジャーノフ監督の『ざくろの色』と『火の馬』を観てもらった」と語り、色彩についてパラジャーノフを参考にしたとされています(注2)。ビジュアル面だけを見ても、強い影響力を持ち続けている作品であることが分かります。

ーー活動写真
 そもそも、映像というものは写真の連続体であるとはよく言われますが、本作は、静的な構図の写真や絵画の静物画を思わせる映像表現に特徴があり、"写真(ないし絵画)と映画の合いの子"なのではないかと感じられた次第です。いくつか印象的な"静的な構図"があるのですが、いずれにおいても登場人物は動きを見せながらもダイナミックさは無く、映像が写真や絵画の延長線上にあることを観客に印象付けてきます。絵画的で写真的であるという意味では、本作は字義通りの"活動写真=motion picture"であるといえ、"元来の意味に立ち返った映画"あるいは、すぐれて"映画らしい映画"であるとも捉えられそうです。

ーー具体的な抽象
 ここで一般論として、詩が抽象的な言葉で具体的な情景を想像させるものであるならば、"映像詩"である本作は、具体的な情景描写から抽象的な観念を想像させるものと言えそうです。ただ、本作の具体的な映像が伝えるメッセージは高度に抽象的であり、(どうして思いつけるのかと思わされる)登場人物の所作の奇抜さを例にとってみても、それらが具体的な身体動作であるにもかかわらず、その意味や意図を推し量ることは容易ではありません。やはり本作は、"具体的な抽象"という一見矛盾した表現によってしか評価し得ない作品なのではないでしょうか。そうした特徴に"映像詩"の極致をみた思いがします。なるほど「詩才は不滅」です。

(注1) https://www.britannica.com/biography/Sayat-Nova (2020/04/19閲覧)
(注2) https://note.com/uplink_jp/n/n2ab1d476c8e2 (2020/04/19閲覧)
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