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サムライのsleepyのレビュー・感想・評価

サムライ(1967年製作の映画)
4.6
水底のようなパリ、小鳥を飼う暗殺者 ****  

原題:Le samouraï、(仏)67年、105分。
第一に、まるでピカソの「青の時代」のようなブルーに沈んだ撮影アンリ・ドカエのカメラは賞賛してもしすぎということはない。薄青い夕闇、わずかな街頭の灯り差す海底のような静かな深夜のパリ。本作の肝は、個人的にはドカエの紡ぐブラック&ブルーの世界にある。さらには、雨模様・朝まだきの鈍色の昼のグラデーションあるグレーも見逃せない。パリの光と影を描いた映画は「死刑台のエレベーター」等々たくさんあるが最高に痺れる。撮影の技術的なことはわからないが、行ったこともないパリになぜか昏いノスタルジアを掻きたてられる。

第二に、ドロンの来歴や情念を排した(隠した)能面のような無表情(動きは能の所作を思わせる)。その裏に説明されないただならぬ静かな炎が垣間見えるのだが、謎の人物だ。彼のまとう空気が観る者を魅了する。まるで善悪や倫理を超えて、突然地上に降り立った寡黙の権化のようだ。カミソリみたいに研ぎ澄まされた感覚、簡素かつ禁欲的な生活。小鳥の飼育を飼っているが、他にはまったく生活臭は感じられない。その小鳥の単調な鳴き声が暗い部屋で響きがいつまでも耳に残って、ドロンの寂寥と重なる。死地に赴くごときSAMURAIのような矜恃。メルヴィルなりの「BUSHIDO」「ZEN」か。討たねばならぬものは討つ。四面楚歌のドロンはまさに手負いの虎。獲物を仕留め、狩人からは追われる。彼の歩くパリは黄泉の国のよう。彼にとっては、現世は何かを築く世界ではないのだろう。

あちこちで指摘されるように、冒頭に示される、「サムライの孤独ほど深いものはない。ジャングルの中の虎でさえ比較にならない」というテロップは「武士道」から採られたとなっているが、私もどこかでこれはメルヴィル監督の創作であるというのを目にした気がする。音楽や無情・非情なタッチが松田優作の鳴海昌平シリーズにどこか似ている。鳴海シリーズはもっとダーティで猥雑な感じであり、本作から獣性は感じられないが、より寒々しく硬質で静謐。

閑話休題。再びドカエであるが、他に「死刑台のエレベーター」「恋人たち」「いとこ同志」「太陽がいっぱい」「大人は判ってくれない」「生きる歓び」「シベールの日曜日」等を撮っているとんでもないカメラマン。仏撮影界の第一人者(の1人)。フランソワ・ド・ルーベ(「冒険者たち」「さらば友よ」「若草の萌える頃」「ラムの大通り」)の音楽も必要最小限に冷たく響く。そしてナタリー・ドロン、フランソワ・ペリエをはじめてする脇役陣がとても良い。

徹底して画が力を持ち、カメラがキャラを語り、セリフではなく行動が映画を前へ進める。監督の指向した表現に筋が通っている。またも映画は筋じゃないなと再確認。映画はルック。目を離すことが難しいドロン。彼が泳ぐ寒色の世界にため息をつき、一貫した「ドロンの居る風景」に溺れればいいのではないか。捻りがとか、オチがとか盛り上がりが、とか、映画に全然関係ない。

★オリジナルデータ
原題:Le samouraï(World-wide . English title:The Samurai), 1967, FR, オリジナルアスペクト比(もちろん劇場公開比を指す) 1.85:1, Spherical , 105 min (101min. USA), Color (Eastmancolor) , Mono, ネガ、ポジともに35mm

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