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人間の絆のFilmomoのネタバレレビュー・内容・結末

人間の絆(1964年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

①サマセット・モームの長編小説のうち、青年に成長してからの主人公フィリップのストーリーに絞り映画化しているが、冒頭の子供の頃足の不具合のためにいじめられた場面がずっと印象に残る。この短い場面があるだけで、主人公のそれまでの半生がどのようなものであったかを深く想像させる見事な導入部分だ。つまり、モームの原作の前半を映画はたったこれだけのシーンに集約して「絵」で説明を終わらせているのである。②ローレンス・ハーヴェイという掴みどころのない俳優がその持ち味を活かされている。物静かな喋り口、キム・ノヴァクが劇中で言うとおりの「退屈な男」。等身大で、スーパースターではない、誰もがなれるローレンス・ハーヴェイであるからこそ、観客は共感できる。一方ファム・ファタールのキム・ノヴァクは徹底的にハーヴェイを悩ませ、翻弄し、苦しませる。そしてその行動が自分自身をもどん底へ向かわせ悲惨な死を遂げることになる。退屈な男が奔放な悪女に翻弄されるが、濃密で一生忘れ得ない時間を過ごす。彼女と出会わなければこのような深い人生経験をすることはなかった。退屈な人生を否定はしないが、翻弄された年月も否定すべきものではない。③この映画も「走り来る人々」と同様「それでも人生は続く」。モームは「人生に意味はない。いわば人生とはペルシャ絨毯のようなものだ。絨毯の刺繍のように、おのがめいめい、それぞれに自分の人生を紡いでいけばよいのだ。それぞれの人生は、だから、紡ぎ上がった時点で各人各様の様々な模様になる。人生には使命や意味、そして意義はない。それでいいのだ。」と書いている。
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