ヴェルヴェっちょ

記憶のはばたきのヴェルヴェっちょのレビュー・感想・評価

記憶のはばたき(2001年製作の映画)
3.8
こんなに繊細な映画久々に観ました。
感情の揺れまでも描き出すような丁寧な画作り。

寄宿学校から帰郷した15歳のサムは、足の不自由な幼なじみの少女シルヴィと再会、互いにこれまでとは違うほのかな恋心を募らせる。
そんなある夜、湖で語り合ううちに、サムはシルヴィの義装具を外し、彼女を水の中へと誘う。湖の中で恋人としての幸せ味わっている瞬間、サムはふと握っていたシルヴィの手を放してしまう。彼女は二度と見つかることがなかった。
そして20年後、精神分析医となったサム(ガイ・ピアース)は、父の葬儀のため故郷へ戻る列車でルビーと名乗る女性(ヘレナ・ボナム=カーター)に出会う。 ルビーは過去に遭った事故の影響で記憶を失っており、サムは“言葉遊び”で彼女の記憶を取り戻させようとする。 ルビーを看病するうち、彼女は事故で亡くしたシルヴィを思わせる言動を繰り返すようになるが…。

記憶は美化される。
当時であればもっと棘があったり、生臭かったりするような思い出も、時とともに細部が失われ、甘美な記憶だけが想起される。 そんな幻想的な記憶のような、オーストラリアの水辺の美観の中で、物語が静かに進んでいく。
偶然なのか、記憶を扱った作品として、クリストファー・ノーランの出世作「メメント」にも主演しているガイ・ピアース。 幼なじみの水死が心の傷となり、感情を閉ざしてしまったサムを抑えた演技で表現している。 ルビーという女性が、亡くなった少女を彷彿とさせるような言動を繰り返すことから、彼女はひょっとしてシルヴィの化身なのでは?というのが話の核。
ルビーと出会ったことで、否が応にも過去のトラウマと向き合わざるを得なくなったサム。 喪失との対面は痛みを伴う。その痛みを映像から感受する間、映画ならではの非日常に浸れる。
派手さはないものの、センチメンタルを結晶化したような映画。