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ピクニックatハンギング・ロックのatsukiのレビュー・感想・評価

5.0
ミランダがエドガー・アラン・ポーの詩を詠む。「見えるものも、私達の姿も、ただの夢。夢の中の夢…」と。しかし、誰が夢見人なのか?ピクニックが解離になってしまったのは分かるが、どうしてミランダはセイラに対して、「人を愛さなきゃ。私以外の人を。私も長くないわ」と吐露するのか。なぜ雲の発生を感じ取り、岩山の裂け目に吸い込まれてゆくのか。時計の針も12時で止まる。そう言えば、ミランダはボッティチェリの天使と呼ばれていた。マグリットが『レディメイドの花束』で、山高帽の男のセルフポートレートの背中に、ボッティチェリの『春』の女神フローラを描いていたけど、その凡庸性の中に潜む神秘性こそが真相である気がする。つまり、夢見人に気付いてしまったら終わりなのだろう。走馬灯のように、喪失感が夢を見させる。エドガー・アラン・ポーの詩、マグリットの絵画、そしてピーター・ウィアーの夢を失ったオーストラリア人への悲嘆。だから我々はミランダたちを探し続けなければいけない。あわよくば救えるかもしれない。
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