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機動戦士ガンダム F91のAirconのレビュー・感想・評価

機動戦士ガンダム F91(1991年製作の映画)
3.7
かなり駆け足な展開。
総集編みたいな感じで詰めこんでる印象。

シーブックとセシリーの人間性が深いところまで描写できていない気がする。
2人の関係性も最初からあったような感じで物語の中での変化やどういうものかの説明が足りない気がした。

鉄仮面とかラフレシアのヴィジュアルがキャッチーを通り越してチープに感じる。

森口博子◎
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一方で、家族に関して、セシリー、シーブックのそれぞれの両親との関係や、共通して兄弟も大きく活躍するのが特徴的。
それぞれ父親、義父は勢力内の影の中の存在として狡猾に立ち回っていて、母親は勢力内や制度内での自分の在り方に疑問を持った存在として描かれている。


イデオロギーも面白い。
貴族主義を掲げるロナ家は、率先して犠牲となる者と統治する者を重ね、その存在が必要だと肯定する。

民主主義は「大義もなく目の前のちょっとした変化に付和雷同する」。
民主主義はあくまでマシ(無難)なだけであって、間違いは犯す。
民主主義の問題の構造は、「自分や自分たちの利益のために判断する」ということが、より短期的に、より局所的になることで、それにより「自分というもののための犠牲を許容しだす」ことで、「別の存在からの搾取を始める(未来も含む)」。
これはつまり、統治の腐敗で、同様に起きてしまう問題。(多頭&腐敗)
そもそも寡頭政治の問題ではない。
”理不尽な現実=課題”に対して、全員が自己犠牲を拒否し、他責的な選択をしたのなら、「みんなで腐敗すれば怖くない」な状態になる(腐敗とも気づかない)。
それに民主主義も結局は一部の人間だけが地球に戻っているという特権を生み出していることには変わらない(≒寡頭&腐敗)。

この問題について真剣に考えれば、「腐敗しない寡頭制」を目指す気持ちは良くわかるし、それには腐敗しないための教育が大事だということも理にかなっている。

シーブックは、「軍事力を持って出てきたものは、武力制圧しか考えない」。
これは目的のためのシステムの一部として犠牲になる庶民の目線。
つまり全体主義は大きな目的を果たすかもしれないが、庶民の犠牲、少なくとも自由は奪われる。

この対立で必要になってくるのは、課題への評価だと思う。
課題の有無、大小によってその働き(≒犠牲)の大きさは変化する。
F91の場合、「地球環境のために地球から離れた」という全体で目的を果たした過去があり、今の課題は一部の特権階級に向けられたもの。
つまり、うっすら全員が犠牲になっていて(それ自体が課題だが)、統治側の腐敗に対する有無大小の評価がある。
シーブックたちは現状を許容していて、ロナ家は許容していない。

後半、カロッゾ主導の虐殺路線は意味不明。
突然の超ラジカル。
鉄仮面をやるしかない=鉄仮面をやればいい。


Vの前の雰囲気。
MSはビームシールドや丸い目が採用されていて、V前感あり。
ヴェルサイユ宮殿風の建物やフランス革命(市民革命は起きていて民主化はされているが)あたりの雰囲気も、Vでのギロチンに繋がる。
(宇宙世紀的にはVは30年後。)


アンナマリーが寝返る描写が無い(事後にシーブックたちの会話でわかる)。
ベラロナ登場で諦めたという、雑で足りない理由だけど、Zでその女心は一回やってるからかな。
だけどその超短絡した大好き→敵に即変わる感じなんとなくわかる。
そしてやるなら心中に近い形を選ぶというのは正しい、が、古いとも思える。(今の感覚はもっとセコイ)

そして、「そこまでして家の名前が欲しいか!」と言われ、”成り上がりのアンナマリー”から”由緒あるベラロナ”に乗り換えるザビーネの気持ちもなんとなくわかる。
”成り上がり”には”成り上がり”の悪いところがあって、それが無いと”成り上がり”にはなれない、けどそれが嫌い、みたいなところある。
家柄が良い子はそれこそ倫理とかの教育がしっかりできてるし、器が大きいし、おおらかというかシビアじゃない感じ。
家柄が欲しいのではなくて、家柄が良い子が良い子で、成り上がりの子が嫌なだけ、という。
文字通り、元も子もない。


まとめると、
セシリー、シーブック(+ドワイト)の元々の関係がもう少し欲しい、それかその後の愛の育まれ過程というか、2人のラストまでの道筋をあと少し明確にしてほしかった。
家族関係も、その愛憎入り混じった感覚はもう少し時間が必要。
政治面も、それなりにいろんなものが議論のテーブルに乗っていたのに、すべて鉄仮面がひっくり返してしまった。
それをやるなら、そこに至るまでの鉄仮面の描写は欲しい。
あとはシーブックの内面(個性)がほぼ描かれていない気も。
リィズのほうが存在感あるくらい。
とにかくいろいろな面でテレビシリーズでゆっくりやってほしかった。
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