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馬鹿が戦車(タンク)でやって来るのmitakosamaのレビュー・感想・評価

4.1
傑作!タイトルのインパクトに目を奪われがちだが、内容が深く実に秀逸!
何処か架空の農村を舞台にした喜劇。だが、ただの喜劇ではない。
農村という排他的なムラ社会の醜悪さをあざ笑う様なペーソス溢れる笑い。悲劇と喜劇が背中合わせな構成が実に見事!

村の端に住む暴れん坊サブにハナ肇。その弟で白痴の兵六に犬塚弘。
年老いた耳の遠い母と住んでいるが、村の地主と畑の土地を巡り対立。
地主の娘(岩下志麻)には心を許すが、村人からは馬鹿にされる。

で、散々馬鹿にされて暴れて逮捕され、腹いせに戦車で大暴れする…という展開なのだが、これが決して胸のすく様な描写じゃない。

だって、サブも無茶苦茶なんだもん(笑)決してサブの言い分が正しい訳じゃない。サブもムラ社会の人間の一部であり、他の村人と実は同じ。
でも妙に笑けてしまう。悪人退治にスカッとするからじゃない。利己主義な人間模様の滑稽さが露呈してしまう可笑しさなんだな。
いざと云うときに村人みんなが責任をなすり合う。
そういう不快に感じそうな人間の俗悪さを、喜劇の枠に収めて描写しているからこの映画は面白いのだ。

ムラ社会に染まっていないのがヒロインの紀子(岩下)と白痴の兵六。
意外な悲劇で騒動の幕がひかれるが、それでも喜劇の本質が変わらない。

この物語が、船頭(東野英治郎)が釣り人(谷啓)に聞かせる話だという点もポイント。船頭が
この村の戦車騒動の顛末を面白がって話す。その様は完全にムラ社会を見下した笑いだ。

人間の滑稽さをこれでもかと笑いにしている。悲劇もまた喜劇。これを人間讃歌として描いているのだから、なんやかんや言って山田洋次は名匠だと思う。
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