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影の軍隊のpikaのレビュー・感想・評価

影の軍隊(1969年製作の映画)
4.5
メルヴィル自身にとってフィルモグラフィーの中で最も思い入れがあり、満足度も高いという作品。
登場人物の誰にも肩入れしないような、徹底して俯瞰で切り取る突き放した演出ではあるのだけれど、燻んだ独特の色彩は心に沁みこむような美しさで、冷酷な目線とは裏腹になんとも言えないノスタルジックな雰囲気を纏う。
一言二言でその何倍もの奥行きを含ませる映像の余白は、画面外の姿さえ浮かび上がらせるかのようでとてつもない。
レジスタンス達は確かに生きていたというような、彼らの日常を丁寧に切り取り、彼らの存在を寡黙に語りつくした余韻は凄まじく、胸に刺さるものがあった。

あべこべな見方になるけれども、トリュフォーの作品に於ける魅力のひとつに、自分や他人の体験や実際に発した台詞などの事実でフィクションを構成するという面があって、ソースはないけど実際にレジスタンスであったメルヴィルがこのフィクションのドラマを語る際に、同様な切り口でディテールを積み重ねていったのではないか、その姿勢をトリュフォーが受け継いだのではないか、などと勝手に夢想してしまうくらい、史実のフィクションというものを超えた何か、フィクションの世界であるのに本当にその世界があり、彼らは存在していて信念と使命の元に命を燃やしていたのではないか、と思わされる説得力のような、そんな生々しさがあった。

戦争映画に於いて「どういう戦争で、何が理由で」と語られないように今作も年月日が提示され、主人公が拘束された時の略歴が語られるだけで特に説明はない。
主人公がなぜレジスタンス活動をするのかや、具体的な活動の内容など全く描かれていない。
語らずとも分かるであろう、というのではなく、特殊な時代と状況下でありながら我々と同じ人間が同じように生きているというのを頭で理解するのではなく、肌で感じられるような構成になっていてとても独特。

前半の逃亡のシークエンスにて、何気なく人物を捉えていたカメラがグルリと人物を半周しピリッとした緊張感が生まれ、そこからジリジリとし空気が張り詰めていく演出や、
裏切り者を始末するため綿密に計画を立てたにも関わらず、想定外の事態によってレジスタンスとしての使命と人間であるという感情の狭間に揺れる生々しさを表現した演出、
置き去りにされるハット、置いていくハットの対比などの細かい演出までも、ひとつひとつのシークエンスが積み重なり、観客の意識の中に彼らの存在と生き様が浮かび上がってくるような味わいの深さがある。

「ギャング」での存在感も素晴らしかったが今作のリノ・ヴァンチュラも本当に素晴らしい。
さり気ない仕草や立ち居振る舞いだけで語る意志の強さや貫禄は圧巻だし、使命のためなら仲間の死もいとわない冷酷なキャラクターであるのに、飛行機のシークエンスでのモソモソとした愛嬌すら感じられる丁寧な描写や、隠れ家で久しぶりにタバコを吸った時の笑顔、信頼する仲間に会えた時の喜び様など、ドラマ上のキャラクターというものを超えた人間らしい深みを感じられる素晴らしさだった。
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