一人旅

セレブレーションの一人旅のレビュー・感想・評価

セレブレーション(1998年製作の映画)
5.0
第51回カンヌ国際映画祭審査員賞。
トマス・ヴィンターベア監督作。

実業家の父・ヘルゲの還暦を祝うため家族や親戚が皆一堂に会する中、父に関する衝撃の真実が長男・クリスチャンの口から明かされていく様子を描いたドラマ。
ヴィンターベアの作品は『偽りなき者』しか観たことがないが、本作も心を鋭く抉られたような感覚に陥る。心底恐ろしく絶望的な映画だ。
還暦祝いの和やかな雰囲気が、クリスチャンの発言によって次第に破壊されていく。暴露される父の過去。クリスチャンの告白を聞いても、参会者はすぐには信じようとしない。というより、クリスチャンの発言を“聞かなかった”ことにするかのように、別の話で盛り上がり始めるのだ。大人たちは真実を受け入れることを恐れている。還暦の祝いの場で、事を荒立てたくないのだ。自分たちにとって都合のいいことだけを受け入れ、都合の悪いことには耳を傾けない。恰好と地位だけは立派でも、大人たちの心には受け入れがたいことに対する耐久性などまるで無い。それどころか、真実を既に知る者でさえ、クリスチャンを嘘つき呼ばわりして責め立てる。“クリスチャンは小さい頃から空想癖があった。だからこんな嘘の話をしてしまう”と。大人たちはまさに臭い物に蓋をするだけで、人格者とされてきたヘルゲに対する予期せぬ変化を恐れているのだ。
そして、罪と罰。クリスチャンの口から明かされる父の真実はおぞましく、残酷。だが、当事者である父でさえ自身の過去を受け入れようとはしない。本作は頑なに知らぬ存ぜぬを貫き通そうとする父が罪の意識を感じ、やがてあるかたちで罰を受けるまでを描いている。その過程で、家族間の愛や憎しみの関係、さらには古い考えに囚われた保守的な人々の差別意識までも描かれていく。
本作は人間の本質を浮き彫りにする。徹底的に追求したリアリズムが本作のもつ不気味さと恐ろしさを増幅させる。ある家族の風景をそのまま切り取って映画にしたかのように生々しく、何より観ていて気持ちが悪いのだ。
ちなみに、本作は新たな映画のかたちを創造するために開始された「ドグマ95」の記念すべき第1作である。
以下の要件を満たす作品がドグマ映画として認められる。
1.撮影はすべてロケーション撮影によること。スタジオのセット撮影を禁じる。
2.映像と関係のないところで作られた音(効果音など)をのせてはならない。
3.カメラは必ず手持ちによること。
4.映画はカラーであること。照明効果は禁止。
5.光学合成やフィルターを禁止する。
6.表面的なアクションは許されない(殺人、武器の使用などは起きてはならない)。
7.時間的、地理的な乖離は許されない(つまり今、ここで起こっていることしか描いてはいけない。回想シーンなどの禁止である)。
8.ジャンル映画を禁止する。
9.最終的なフォーマットは35mmフィルムであること。
10.監督の名前はスタッフロールなどにクレジットしてはいけない。
(Wikiより引用)
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